閑吟集狂想~変わる愛のカタチ

落乱には、閑吟集をはじめとする中世の歌謡がときおり登場する。そういえば名前だけは歴史の授業で習ったと思うのだが、内容を目にしたことはなかった。というわけで、ちらほらと見てみると、これがけっこう面白い。というわけで、閑吟集から面白かったものをいくつか拾ってみた。

ちなみに、閑吟集には311首がおさめられており、番号はその掲載された順番である。

 

 

282 あまり見たさに そと隠れて走て来た 先(まず)放さいなう 放して物を言はさいなう そぞろいとほしうて 何とせうぞなう

 


この時代は、基本、通い婚である。女のもとに男が通う。女は男の訪れを待つ。

だが、この歌に出てくる女はもっとポジティブである。みずから、男のもとに駆け寄っていく。男は黙って、飛び込んでくる女を受け止める。シンディ・ローパーの『I drove all night』を思わせるものがある。

そぞろ、という言葉について、「よく何となくと口語訳せられるけれども、たいていの場合、私には何となくでは弱すぎる感じがする。そぞろとは、心の進むさまで、むしろしきりになどに近いのである」(志田延義『鑑賞日本古典文学』)という指摘がある。私だったら、どうしようもなくイトオシイ、と解したいところである。


この歌をみると、私は大三島の大山祇神社で見た女性用の鎧を思い出す。大山祇神社の神官の大祝家の娘で、鶴姫の着用したという伝承をもつ鎧である。日本に現存する唯一の女性用の鎧なんだそうである。鶴姫が生きた時代は16世紀中盤の戦国時代で、大祝家は、河野水軍の一族として大内家との戦に参陣していた。鶴姫は、みずから参陣した戦には勝ったものの、兄と恋人を喪い、戦から帰還したあと、18歳で自害したという。

鶴姫の鎧は、ずいぶん小さかった。水軍の荒くれ男たちの間に混じれば、一層華奢に見えたことだろう。戦国の世とはいえ、鶴姫には、あるいは戦わないという選択肢もあったに違いない。それでも、鎧を着けて戦に加わることを選んだところにこの時代の女の持つ勁(つよ)さがあり、この歌の女と通じるものを感じる。お約束などに縛られない、戦っていく強さと、男の前で見せる一途さ、たおやかさを併せ持った女たちが見える気がする。