【Book Review】室町人の精神

中世経済について刺激的な論考を発表されている桜井氏だが、この本もまた実に面白い。この本を読んで、私はいくつかのなぜ?を解消できた。

・なんで「徳政一揆」という権力に都合の悪いことが頻発したのか

・「わび」「さび」が生まれたのはなぜか

・なぜ「下克上」という現象が発生したのか

答えについては私がここでつたない説明をするより本書を読んでいただいたほうが早いのだが、一点目については「もののもどり」という概念での説明がものすごく分かりやすかった。「もののもどり」とは、モノとは本来の持ち主と呪術的なつながりを持つものであるから、何らかのきっかけ(それが一揆だったりするのだが)により、本来の持ち主の下に戻るのが当然という考え方で、売買や贈与によって所有権が当然に移転するという現代の考え方とはずいぶん異なる未開的な考え方である。

京都に政治の拠点を置いた室町幕府は、それまでのように農地からの上がりに課税するばかりでなく、現代で言うところの法人税や固定資産税に該当するような課税を見出すような都市型の財政運営をしたし、経済を発展させた町衆も、高度な金融経済を作り出した。その中でうまれる近代的な思考と、「もののもどり」に代表されるような前近代的な思考が錯綜し、せめぎあった時代が室町時代であり、やがて前者が優越していく中で宗教勢力の権威も、ほかならぬ幕府の権威も薄れていったという時代だったのだろう。

本書の記述の対象は主に15世紀までで、残念ながら落乱の時代は含まれていない。だけど、16世紀中盤以降の西洋文明との接触は、室町末期の人々の精神をより近代性の強いものにして、やがて戦国から江戸に続く近代合理性へと続いていくのだろうと思った。

 

桜井英治著

講談社学術文庫

ISBN978-4-06-291912-8