Flashback

【献呈】春日さま

 

きり丸、乱太郎のCP要素なお話を書こうと思っていたのですが、気がつくとシリアスな要素が強くなってしまいました。これをしもCP要素ありといえるのかどうか…は、皆様のご判断に委ねたいと思います。

ともあれ、このお話を、春日さまにひっそりこっそり捧げます。

 

Next →

 

 

「なんか、本格的に道に迷ったようだね」
「…だな」
 森の中を、乱太郎ときり丸が歩いている。いや、それはすでに獣道を藪こぎに近い状態で進んでいるという状態に近い。
「どうする? 戻る?」
「今さら、戻りようがあるか?」
「…だね」
 一年は組のオリエンテーションで校外に出ていた2人は、そのまま迷子になっていた。
「しんべヱがいれば、鼻が利くんだけどな」
「庄左ヱ門たちのチームと一緒になったからね」
「ああ。あみだくじでチーム決めたのに、乱太郎と組むなんて、ほんと俺たち腐れ縁だよな」
「…なんかその言い方、私と組むのがイヤみたい」
「っていうかさ、不運小僧といわれている乱太郎だからな」
「悪かったね、不運小僧で」
 乱太郎は、ふくれっ面になってそっぽを向く。
「悪い悪い…それより、早く行こうぜ」
「うん」
 すぐに笑顔に戻る乱太郎を、ホントに素直だな…ときり丸は思う。と、乱太郎が真剣な表情になった。鼻をくんくんさせている。
「どした、乱太郎」
「ねぇ、ちょっと変な臭いがしない?」
「変な臭い?」
「そう…なにか燃えてるような、きな臭いにおいがするんだけど」
「どれどれ」
 きり丸も、鼻をくんくんさせる。
「あ…」
「ひょっとして、山火事?」
 最近、雨が少なかったから…と思いながら、乱太郎はあたりを見回す。
「高いところから見よう…ちょっと俺、あの木に登ってくるわ」
 ひときわ高そうな木に、きり丸はするすると登っていく。
 思ったとおり、木はまわりの樹冠よりひときわ高く突き出していた。てっぺん近くまで登ったきり丸は、あたりを見回した。その動きが止まる。みるみる顔が青ざめる。
「ほげげ…けっこうデカいぞ」
 木々の向こうに、赤い炎が立ち上るのが見えた。横に広がった炎は、一部はところどころで高く燃え盛り、黒煙を巻上げていた。
「ヤバイ、ヤバイぞ」
 慌てて降りてくるきり丸に、乱太郎が声をかける。
「どうだったぁ?」
「ヤバイって、ほんとに山火事だったぜ! それもけっこう近いぞ」
「いぃぃ!?」
「どうするる…山火事のときは、どうするんだったっけ」
 最後は幹から飛び降りたきり丸は、腕を組んで考え込む。
「どうするじゃないでしょう! 山火事なんだから、風上に逃げないと、火に巻かれて焼け死んじゃうでしょ!」
 叫んだ乱太郎は、指を湿して風の方向を探る。
「きり丸、火はどっち方向に燃えていた?」
「たぶん、あっち」
「じゃ、こっちに逃げれば、風上に回りこむことができるね…じゃ、行くよ!」
「行くよって、そっちはただの藪じゃねえかよ」
「藪でも何でも、行くしかないでしょう! 藪こぎでいくから、ついて来てね」
「あ、ああ、わかったよ…」
 急にきびきびと物事を決めていく乱太郎に、きり丸は内心、驚いていた。しかし。
 -そういえば、乱太郎も冷静なところがあるからな。
 庄左ヱ門ほどではないにせよ、暴走しがちな自分やしんべヱのストッパーないしツッコミ役に回っているのが乱太郎だった。それに、いざとなると強いのは、は組のお約束である。

 


「ここまで来れば、大丈夫だね」
 山火事の場所からは充分離れたところまでやってきて、ようやく乱太郎は足を止めた。木々がすこしまばらになっているらしい。陽が足元まで差し込んでいる。
「ああ…それにしても、もうちょっと加減して走ってくれよぉ…俺、なんど見失うかと思ったぜ」
 ぜいぜいと肩で息をしながら、きり丸が追いついてきた。
「きりちゃんには、火事場のなんとかって、ないの?」
「ゼニ儲けのクソ力ならあるぜ。ゼニがかかれば、乱太郎より早く走れる自信は、ある!」
「そんなことで胸張らないでよ…それにしても、他のみんなは大丈夫かなあ」
 苦笑した乱太郎は、ようやく、仲間たちの事にまで頭が回る余裕ができたらしい。気がかりそうに言う。
「ていうかさ、俺たちが外れすぎたから、山火事の場所まで行っちまったんじゃねえのか」
 頭の後ろで腕を組みながら、きり丸が辺りを見回す。
「だいたい、ここどこなんだよ」
「ああ、逃げるのに夢中になってて、ますます迷子になっちゃったみたいだね」
 乱太郎も不安そうに辺りに眼をやる。
「しょーがねえな。この辺で野営できるとこ探そうぜ」
 もう日が暮れかかってるぜ、と手にした枝で下藪を払いながら、きり丸が先頭に立つ。その後ろを、枝を拾いながら乱太郎が続く。
「なに拾ってんだよ」
「だって、野営するなら、薪がないと火がたけないじゃん」
「お、すげー気がきくじゃん…伊助みたい」
「伊助ほどじゃないけどさ」
 陽が傾きかけている。不安を紛らわすように薪になる枝を拾いながら軽口を交わしていた2人が、不意に足を止めた。
「…聞こえるか、乱太郎」
「うん、聞こえる…水の流れる音だ」
「行ってみようぜ」
 2人が駆け出すと、程なくせせらぎが現れた。
「どうする? この流れの下流に向かって行けば、たぶん平地には出ると思うけど」
「けどな…もう夕方だからな…」
 きり丸が、空に眼をやる。
「そうだね」
 乱太郎も、枝を抱えながら空を見上げる。
「今日はやめとこうぜ。それよか、どっか野営できるとこ探さないと」
「ねえ、あの洞穴なんてどう?」
 乱太郎が指差した先の崖に、洞穴がぽっかりと口を開いていた。
「なんか気持ちわるいけど…あそこしかないか」
 洞穴の入り口に薪代わりの枝を積み上げると、乱太郎はせせらぎに向かって歩き始めた。
「どこ行くんだよ、乱太郎」
 火を起こそうとしていたきり丸が声をかける。
「さっきの川で水をくんでおこうと思って」
 竹筒を持ち上げながら、乱太郎が答える。
「あ、俺も」
 ついでに焚き付けになる木の葉でも集めようと、きり丸も乱太郎に並ぶ。
「それにしても、さんざんだったね」
 流れに竹筒を浸しながら、乱太郎がぼやく。
「だよな。道に迷うわ、山火事に巻き込まれかけるわ」
 乱太郎に並んで、きり丸も竹筒を流れに浸しながら、川底を覗き込む。
「あーあ、どーせなら、こういうとこで砂金でも見つけられねえかな」
「まったくきりちゃんは…」
 苦笑いを浮かべた乱太郎は、竹筒に栓をすると、腰を浮かす。立ち上がりかけたところで、足がぬかるみにとられる。
「あっ、え、お、おわっ」
 腕をばたばたさせる乱太郎に、きり丸が顔を上げる。
「どした、ら…」
 乱太郎、と声に出す前に、腕をばたつかせた乱太郎の身体が、きり丸に向かって倒れ掛かってくるのが視界に入ってきた。
「げ! ちょ、ま、」
 乱太郎の身体を支えようと腕を伸ばそうとしたが、間に合わない。中腰の不安定な姿勢だったところに、乱太郎の身体がぶつかってくる。
「「おわーっ!」」
 次の瞬間、派手な水音が上がって、2人の身体は流れの中に投げ出された。

 

Next →