風魔の事情

 

 久しぶりの与四郎の登場です。あまりにデタラメな相模弁については生温くスルーしてやってください <(__)>

 風魔の里では、きっとリリーさんの都合でいろいろなことが決まっていくのだと思われます。

 


「よーし。これから委員会を始めるぞ。まず用具倉庫から修補の道具を持ってこい」
 放課後、いつものように委員会の始まりを告げる留三郎だった。
「は~い」
 いつものようにしんべヱがちんたら倉庫に向かう。「こら、しんべヱ! 早く来い!」すでに道具箱の棚の前に立った作兵衛が声を尖らせる。
「あの…せんぱい」
 やれやれ、いつものやりとりだな、と肩をすくめた留三郎だったから、背後からかけられた声にやや驚く。そこには喜三太がいた。
「どうした、喜三太」
 いつになく思いつめたような眼で見上げえる喜三太に戸惑いながら訊く。
「きょうの委員会はどれくらいかかりますか」
「どれくらい?」
 思わず鸚鵡返しに訊く。喜三太が委員会の終了時間を気にしたことなど一度もなかったはずだった。
「はい」
 だが、一心に見上げる顔にはなにやら切羽詰まった事情があるらしい。
「そうだな」
 腕を組んで今日の作業量を思い浮かべる。「今日は用具の数量チェックと縄づくりと槍の穂先研ぎくらいだったかな…アヒルさんボートの修補もやりたかったが、文次郎のヤローが予算削りやがったせいでよ…!」
 不意に予算会議と会計委員長の顔が脳裏をよぎって怒りが再燃する。ぐっとこぶしを握る。
「じゃ、すぐにおわるんですか?」
 ぱっと表情を輝かせた喜三太が声を弾ませる。
「ああ、まあな」
 その変化にふたたび戸惑いながら留三郎は応える。
「やったーあ!」
 満面の笑みで飛び上がると、倉庫に向かって駆け出す喜三太だった。その後ろ姿を唖然と留三郎は見送る。

 


「なあ、喜三太のやつ、今日は何を急いでいたんだ?」
 委員会の終了後、片付けもそこそこに喜三太はいなくなってしまった。何かを聞いているのか、作兵衛は黙って片づけを続けている。
「ああ、風魔の与四郎さんがきてるからだとおもいます」
 片付けの手を止めたしんべヱが応える。
「風魔の与四郎か…」
 思いあたるように留三郎が頷く。守一郎が不思議そうに首をかしげる。
「風魔の与四郎…って誰ですか?」
「ああ、喜三太の先輩でな、風魔流忍術学校の六年生だそうだ」
「喜三太はもともと風魔からの転校生なんです。だから与四郎せんぱいもだいすきなんです」
 留三郎としんべヱが説明する。
「へえ、そうなんですか」
 風魔の名は耳にしたことはあったが実力のほどは知らない守一郎は薄い関心を隠さない。
 -そうか。アイツも元気でやってるみたいだな…。
 黙って喜三太の去ったほうに眼をやる留三郎だった。たいてい山伏姿の異形ななりで現れる男だったが、面立ちが似ているせいかどことなく親しみをおぼえる男でもあった。

 

 

 -さすがに腹減ったな…。
 早めに終わった委員会のあと、校外に自主トレに出ていた留三郎が食堂に向かっていた。思い切り身体を動かして学園に戻ったころにはすでに外は暗くなっていた。もう人気のあるメニューはなくなっているかもしれないと思いながら食堂に足を踏み入れる。と、見覚えのある後姿が眼に入った。
「おばちゃん、A定食!」
 カウンターに食券を置きながら声をかけると、くるりと振り返って白装束の肩を叩く。
「よお、与四郎! ひさしぶりだな!」
「おお、留三郎。いさしかぶりぃ」
 振り返ったのは、いつもと同じ山伏姿の与四郎だった。
「伊作もいたのか…そういや、喜三太には会ってきたのか」
 テーブルを挟んで伊作の隣に掛けながら、留三郎は喜三太の表情を思い出していた。
「ああ。元気で安心した」
 だが、そう応える与四郎の声に屈託をおぼえて軽く眉を上げる留三郎だった。
「喜三太のやつ、楽しみにしてたみたいだぞ。お前に会うの」
「ああ。オラも楽しみにしてた」
 そう言いながらも与四郎の視線はテーブルに向けられたままである。そこにはすでに空になった食器が並んでいる。
「ちょっと困ってるみたいなんだ」
 先に与四郎と向かい合って座っていた伊作が眉を寄せたまま声を上げる。
「困ってる?」
 留三郎がいぶかしげに訊いたところで、「はいよ、A定食」とおばちゃんが声をかける。「はい」と言ってカウンターに立った留三郎が戻ってきてトレーを置く。
「ああ。もうここに来れなくなるかもって、ね?」
 早速飯を掻き込み始めた留三郎を横目に伊作は与四郎の顔を覗き込む。
「来れなくなる?」
 声を上げると同時に喉を詰まらせた留三郎がせき込む。慌てて汁で流し込む。
「…ああ」
 視線を伏せたまま与四郎は頷く。
「身ィ固めろって言われてる」

 

 

 それは畿内に出発する前夜のことだった。早い出立に備えて夕食もそこそこに休もうと自室に向かっていた与四郎はリリーの呼び出しを受けた。
 -なんだべ。喜三太になにか言伝でもあるんだべか。
 そう思いながらリリーの部屋を訪れた。障子の前に片膝をついて「錫高野与四郎、まいりました」と声をかける。
「はいれ」
 中から声がして「は」と言いながら障子を開ける。
 すでに日も暮れていたが、部屋の中は明かりひとつなく薄暗かった。ぽっかりとあいた洞窟のようにひときわ暗い床の間の前にちょこんと座る人物もまた、濃い影の中になかば紛れかけていた。
「明日は出発じゃったの」
 長身の与四郎からすればひときわ小柄なリリーだったが、洞窟のような暗がりを背負った姿は輪郭もあいまいな巨大な影に見えて、与四郎はすこし怖気をふるった。
「はい。早くに」
 だから用件は早く済ませてほしい、とはさすがに言いかねて短く応える。
「喜三太にもよろしく伝えておくれ」
「は」
「それからの」
「はい…」
「帰ってきたらそなたの祝言をあげる。楽しみにしておれ」
 きわめて当たり前のように放たれた言葉が意味をなすのに少し時間がかかった。
「あ、あの…いま、何と?」
 思わず声が上ずる。シュウゲンってなんだ?
「祝言は祝言じゃ。お前に嫁を取らせると言っておる」
 ほっほっほ…と楽しげな声でわらう。与四郎には暗闇にひそむ狐が自分をたぶらかそうとしている笑いに聞こえた。
「しかし…私はまだ忍たまですし、山野先生のもとで修業中の身です。嫁取りなど…」
 だがこのまま呆然としていては祝言とやらが既成事実になってしまう。慌てて抗弁する与四郎だった。
「なんの。そなた、もう十五であろう。子を作れぬわけでもあるまい」
「それは…」
 与四郎の男の機能はすでに成熟している。思わず顔を赤らめる。
「それにそなたも気付いておろう。里の娘たちがどれだけ噂しておることか」
 上機嫌にリリーはさえずる。「げに、お前の態度がつれないとも言われておる。どれだけの娘がせめて夢の中だけでもねんごろに話したいと衣を裏返して寝ているか、そなたは知らんじゃろ。まったく罪な男よ」
 詰っているようで声は楽しげである。きっとどの娘を娶せるかあれこれ考えを巡らせせているのだろうと与四郎は考える。
 たしかに忍術の訓練をしているとき、休憩時間に木陰でくつろいで仁之進たちと話しているとき、視線を感じたことはないでもなかった。それのもつ意味に気付かないこともなかった。だが、そのようなことにほとんど関心を抱かなかったのも事実だった。なにより自分は忍たまで修業中の身なのだ。女に構うのは一人前の風魔忍者になってからだと固く信じていた。だから唐突な嫁取りの話は与四郎をひどく混乱させた。
「しかし、それでは山野先生と出かけることができなくなります…」
 嫁取りをしたばかりの若い風魔忍者は、早く跡取りをもうけるようにと風魔の里やその周辺に配置されることが通例となっていた。それは山野たちとともに畿内を訪れることは当分できなくなることを意味していた。学園を訪ねて喜三太に会うこともできなくなる。
「気にするでない。山野には仁之進がおる。手が足りなければ代わりの者をつけることもできよう。それに、いい加減喜三太も風魔に連れ戻さねばならんからの」
 二人の会話はどこまでもかみ合わない。いや、あえてかみ合わないようにしているのだろうと与四郎は思った。この場は与四郎の意見を聞く場ではない。あくまで一方的に宣言する場なのだ。それもお情けで事前に話をしてやっている場にすぎない。旅から戻っていきなり祝言ということで混乱するより、旅の間にゆっくり心を決めておけということなのだ。そこに与四郎の意思の入り込む余地はない。
「しかしオラは…」
「与四郎には誰か思う者はおるか?」
 言いかけた与四郎をまったく無視してリリーは畳みかける。思わず口ごもった。
「いえ、今はそんなことは…」
「ならそれは特に考えんでもいいということじゃの」
 勝ち誇ったようにリリーは続ける。「ならば、わらわがよい娘を見繕っておこう。誰を選んでも、残った娘たちから恨まれそうなのは困ったもんじゃがの」
 早くも与四郎の嫁を決めた後の対応に思いは流れているようである。与四郎はこれ以上抗弁するのはやめておこうと思った。
 -いまリリー婆さんはすっかり舞い上がってる。いまあれこれせーっても聞く耳もたねーべ。
 とにかく旅の間に考えを巡らせて、できれば誰かに相談して、リリーの計画を諦めさせようと考えた。少し時間を置けばリリーも冷静さを取り戻すかもしれないし、なにより今の自分は風魔の忍として一人前になることが最優先で、嫁を娶って子どもをもうけて、ということにはまったく関心を抱けなかった。だからこそ、同い年の、同じ忍たまという立場の仲間に話を聞いてほしかったのだ。
 


「だけど、お前だってまだ忍たまだろ? 風魔の」
 思いがけない話に留三郎の声が上がる。
「んだ」
 力なく与四郎が頷く。「でも、風魔じゃそんなの関係ねえ。元服した男は早く嫁とって子ども作れって言われる」
「でも、嫁とることと、ここに来れなくなることとは関係あるのか?」
 留三郎が訊く。それが任務であれば、妻を置いて長い出張に出かける。新婚であろうが関係ない。それが忍だと思っていた。
「風魔はちょっと特殊なんだ」
 そんなことをいちいち説明するのも厭わしかった。「風魔じゃ、結婚したばっかの男はしばらく風魔の里かその近くで働くことになってる。それで早く子どもをこしれーってな」
「ほお」
「へえ」
 留三郎と伊作が同時にため息をつく。「それはまた、さばけてるというかなんというか…」
「んでも、オラはまだそんなことには関心ねーだよ」
 吐き出すように与四郎は言う。「それよりも、風魔の忍として一人前になりてえだーよ。そう考えるのは間違ってるだべか…」
「いや、間違ってるとは思わないけど…」
 考えながら伊作が口を開く。「でも、風魔では昔からそうしてきたというなら、与四郎にも同じようにしてほしいとみんなが期待するのも仕方ないと思うんだ」
「じゃ、与四郎がこのまま学園に来れなくなってもいいっていうのかよ」
 留三郎が声を尖らせる。あれだけ与四郎を慕っている喜三太にとっては受け入れられないことだろう。
「僕だってそんなことにはなってほしくないよ」
 つられるように伊作も声を上げる。「でも、昔からのやり方を当たり前だと思ってる人たちの考えを変えるのはすごく難しいと思うんだ」
「そーゆーことだべか」
 伊作の言うことももっともだと与四郎は頷く。であれば、やはりリリーが冷静さを取り戻すまで風魔に戻るのを遅らせるしかないかと思い始めたとき、留三郎が口を開いた。
「でも、風魔の男だって全員が全員、元服と同時に結婚するわけじゃないだろ?」
「そりゃあ、まあ…」
 とはいえ例外は少ないと思いながら与四郎は曖昧に頷く。
「だったら、当分結婚する気はないって言っちまえばいい話だろ? 外野がどう言おうとお前の人生を変える資格なんてねえんだからさ」
 いかにも留三郎らしい単純明快な意見だったが、与四郎は黙ったまま床板に視線を落としている。
「そうしなきゃいけないかもって、与四郎も考えているってことかい?」
 その様子を見ていた伊作が声をかける。
「なんでだよ。イヤなもんはイヤってハッキリ言ってやりゃいいだけじゃねえのかよ」
 自分が理不尽なことを言われたように留三郎が憤然とする。
「いや…伊作のゆーとおりだ」
 ぽつりと与四郎は言う。留三郎が咎めるように視線を向けるが、黙って続きを促す。
「…結婚よりも一人前の忍になりてーのは変わらね。んでも、血筋を残さねーといけねーのも分がってる。家のためにも風魔のためにも早ぐ子どもこしれーねえと、いつけーってこれねくなっか分がんねーし…」
「…」
 留三郎と伊作も黙り込んで、三人の間に重苦しい沈黙が流れた。風魔には風魔のシビアな現実があるのだ。それに、所詮、忍に安全な仕事などない。

 


「ねえ、あんたたち、深刻そうな話をしてるようだけど、そろそろ上がれないかしら」
 黙り込んでいた三人に、食堂のおばちゃんが悪そうに声をかける。
「は、はい!」
 びくっとした伊作が声を上げる。他のテーブルはすでに片付けられていて、拭き終えたばかりの天板がしっとりと濡れていた。
「し、失礼しました!」
 慌てて立ち上がった留三郎が、トレーを持って厨房に入る。「私達が洗っておきます…ほら、伊作、与四郎。お前らも手伝え」
「う、うん」
「お、おう」
 続いて立ち上がった二人も厨房に急ぐ。
「悪いわねえ」
 言いながらテーブルを拭き始めるおばちゃんだった。

 

 

「で、大丈夫なの?」
 食器を洗い終えて厨房から出てきた三人をおばちゃんが呼び止める。
「え…その…」
 口ごもった与四郎が思わず顔を伏せる。
 -なあ、この際、おばちゃんに相談しちゃった方がよくねえか?
 -そうだね。僕たちだけで考えても埒が明かないからね。
 目配せした留三郎と伊作がおばちゃんに向き直る。
「おばちゃん、ちょっとよろしいですか」
「ほら、与四郎も」
 与四郎を促して空いた席に腰を下ろす。

 

 

「…へえ、そういうことだったの」
 話を聞いたおばちゃんは手にした湯呑を傾けて白湯を飲む。
「おばちゃん、どう思いますか?」
 うかがうように伊作が訊く。
「私の考えでは、錫高野君を好きな娘さんがいて、その子のためにリリーさんが持ち出した話じゃないかと思うわね」
 きっぱりとした台詞に三人が顔を上げる。
「どういう…ことですか…?」
 戸惑った表情を浮かべて与四郎が訊く。
「錫高野君は気がついてないようだけど、きっとあんたに思いを寄せている娘さんがいるはずよ。でも思いを打ち明けることができなくて-もしかしたら気付いてもらえなくて-やむにやまれずリリーさんに相談したんじゃないかしら。今の話だと、風魔では錫高野君ももう結婚してもいい年みたいだし、リリーさんとしても二人がお似合いだと考えたんじゃないかしら」
「でも…リリーさんは、『どの娘を娶せようか』ってせーてたべ…」
 思わず地の言葉に戻ってしまう与四郎だった。心に決めた相手がいるならば、その娘の名を出すのではないのか…。
「当たり前でしょ」
 呆れたようにおばちゃんは声を上げる。「言わなかったってことは、そのことを伏せておいてほしいって頼んだからに決まってるでしょ。ただ、心積もりだけはさせておかないといけないからそう言っただけよ」
「んだべか…」
 呟きながら与四郎は考え込む。風魔を率いる山村リリーの定める婚姻に与四郎や錫高野家が逆らう余地はない。おばちゃんは娘を主語にしたが、おそらくは釣り合う家格の家の者がリリーに頼んだに違いない。裏で話がついているのであれば、もはや選択肢はないも同然だった。
「…」
 黙り込んだ与四郎に顔を見合わせて小さくため息をついた伊作と留三郎がおもむろに立ち上がる。
「さ、もう食堂も終わりの時間だから行こうか」
「おばちゃん、失礼しました」
「はいよ。おやすみなさい」
 よろよろと腰を上げた与四郎に二人が付き添う。
「今日は俺たちの部屋に泊まって行けよ。な」
「そうだよ。後で小松田さんに布団を借りてくるからさ」
 しきりに声を掛けながら廊下を歩み去る三人の背に眼をやりながらおばちゃんは考える。
 -まだまだ子どもなのにあんなにいろいろ背負い込まなきゃいけないなんて、かわいそうねえ…。

 


「与四郎。リリーさんから手紙が届いてるぞ」
「リリーさんから?」
 翌日、宿所に戻った与四郎に山野が手紙を手渡した。受け取ろうと伸ばしかけた手が一瞬止まった。あまりいいことが書いてあるようには思えなかった。
 -相手が決まったとか、一刻も早く帰って来いとか…。
 内容は予想と異なるものだった。
「どした、与四郎」
 意外な文面に眼を見開いたまま固まっている与四郎に、傍らにいた仁之進がぬっと顔を突き出す。
「あ、ああ…」
 定まらない視点のまま手紙を山野に差し出す。山野と仁之進が手紙を広げる。
「ふむ…結婚の話はなかったことに、か…」
「リリーさん、いつもの気まぐれだべか」
 一読した二人も当惑したように呟くばかりである。
「ま、そういうことならもう少しわしらと旅を続けられるな」
 言いながら山野はぱしりと肩を叩く。「なに辛気臭い顔をしておる。これからもっと風魔の実力を知らしめねばならんのだ。しゃんとせんかい!」
「は、はい!」
 はっとしたように背筋を伸ばした与四郎が、ようやくはにかんだような笑顔を見せた。

 

 

「ええい、いまいましい!」
 その頃、風魔の里ではリリーが不満を爆発させていた。
「折角わらわがよい縁を取り結んでやろうとしたというに!」
 ことの発端は、部下が娘の縁組を依頼してきたことだった。家柄と年齢の釣り合いを考えて与四郎を推薦し、部下も満足して持ち帰った。だから畿内へ旅立つ前の与四郎にしかるべき心積もりをさせるべく婚儀の話をしたのだ。それなのに、数日後、申し訳なさそうな顔で現れた部下は、与四郎以外の男を紹介してほしいと言い出したのだ。
「なにが『めんめんくじらサ懐にいれるような男は困る』だ! 与四郎と喜三太が仲がいいことくらい風魔の者なら知っておろうものを…!」
 どうやら部下の娘はナメクジが嫌いなようだった。そして、喜三太と一緒になってナメクジと戯れるような男は願い下げだと強硬に主張したのだろう。でなければ自分が勧めた縁組を断ることなどありえないのだ。
「ったく近頃の娘は…それに親も親じゃ!」
 だが、風魔の後継者を確保するためにも代わりの婿候補を見繕わなければならない。与四郎との縁組を前提に組み立てていたその他の組み合わせも一からやり直しである。
「当面、与四郎の縁談は後回しじゃ…ええい、いまいましい!」

 

 

 

<FIN>

 

 

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