むきになって

 

まだやってました、シューマン『子供の情景』シリーズ。今回は団蔵回です。

団蔵飛蔵親子はホントに似た者親子で、でもこの二人のケミストリーはなぜかほんわかしているという不思議さをいつも感じてしまいます。ふたりとも一本気でぶつかることも多そうなのに、なぜか最後はうまくまとまるのは親子だから、なのでしょうか。

 

タイトルはシューマンの「子供の情景」より第10曲"Fast zu ernst"

 

 

「ところでよ、加藤村の飛よ」
 馬借の寄り合いは、いま、打ち解けた宴席となっていた。酔って声高に話す親方衆の中で飛蔵に話しかけてきたのは近隣の馬借の親方である。
「ん?」
 酔いで赤黒くなった顔を向けた飛蔵だったが、続いて低く語りかけられた言葉にその表情が空白になる。
「お前さん、息子を忍者の学校に通わせてるそうじゃねえか」
「ん…うむ、まあ、そうだが…」
 とっさに認めるべきかどうか惑った飛蔵が言葉を濁す。
「忍者ってことは、どっかの城の手先になるってことだろ?」
 さらに声を低めた相手が飛蔵の肩に腕を乗せながら顔を寄せる。
「そ…そんなもん、かな?」
 飛蔵の視線が宙をさまよう。
「ったり前だろ」
 相手の口調が圧力を帯びる。「大名どもは俺たち馬借になにかと税金かけたり動員令かけたりしている。お前の息子はそんな連中の手先になるってことだぜ?」
「そ…そんなもんなのか?」
 なぜ相手が、息子の団蔵が忍術学園で学んでいることを知っているのかは分からない。だが、飛蔵としては、息子に読み書き算盤を教えてくれるところであればどこでもよかった。そして、ある程度の入学金を払いさえすれば入学できる忍術学園しか選択肢がなかったというのが実態だった。
「まあ、お前さんにはお前さんなりの考えがあるんだろうが」
 相手は言葉を切る。「これだけは覚えておいてくれ。もし大名の手先が紛れ込んできたら、俺たち馬借の自由は終わりだ。そんときに後悔しても遅いんだ…」

 

 

 -馬借の自由の…終わりだと?
 寄り合いの帰りにひとり黙然と考えながら加藤村へと向かう飛蔵だった。
「あ、親方!」
 飛蔵の姿を認めた若い衆たちが声を上げる。
「お帰りなさい!」
「今日は早かったですね」
「…おう」
 弾んだ声に低く応えながらひらりと馬から降りる。すかさず若い衆のひとりが手綱をとる。と、その言葉に動きが止まる。
「そういえば、若旦那からお手紙がきてましたよ」
「そ…そうか」
 辛うじて機械的な返事だけを口から押し出す。
「どうされたんですか?」
 若い衆が不思議そうに首をかしげる。
「いや…な、なんでもねえさ」
 ぎこちない笑いを浮かべながら飛蔵は母屋へと足を向ける。

 


 -今度の休みに帰る、か…。
 いつもなら団蔵が帰ってくると知れば、もう待ちきれなくてたまらなくなるところだったが、飛蔵は重いため息をついてなんども悪筆がちりばめられた文面を視線でなぞるばかりである。
「あれ、親方、こんどのお休みは若旦那はお帰りにならないんですか?」
 馬小屋に足を運んだ飛蔵に、清八が声をかける。
「ん? いや、帰ってくるそうだ」
「そうですか。よかった…じゃ、ないですか?」
 うかない表情に清八がためらいがちに言葉を切る。
「ああ、そうだな」
 心ここにあらずといった態で馬の様子を見て回っていた飛蔵が、ふと去り際に振り返る。
「なあ、清八」
「なんですか?」
「…いや、なんでもない…」
 何か言いたげな眼を向けていた飛蔵だったが、ふたたび重いため息をつきながら背を向けて歩み去る。
「…」
 その後ろ姿を黙って見送る清八だった。これはいよいよもってただならぬ事態が起こったに違いないと思いながら。

 


「清八!」
「若旦那」
 村のはずれの小川で馬を洗っていた清八に、小さな足音が駆け寄る。
「ただいま! 異界妖号!」
 馬の首を軽く叩いた団蔵は期待に満ちた眼で清八を見上げる。
「ね、村にかえるまえに、ちょっと遠乗りに行こうよ!」
「あ…はい」
 いつもなら「親方がお待ちかねなんですよ」と諭してまずは村まで連れ帰るところだったが、今日に限ってはそうは言いかねた。
「あ、そっか」
 ふと察したように団蔵が漏らす。「父ちゃんがまってるんだったっけ…じゃ、はやく村にかえろうよ!」
「そう…ですね」
 曖昧に頷いて清八は馬の身体を拭うと団蔵の後に続く。いつの間にかそんなことまで思いが至るようになったんだ、と思いながら。

 


「父ちゃん、ただいま!」
「おう、待ってたぞ」
 元気のいい声が座敷に響いて、飛蔵はゆるゆると顔を上げた。「元気でやってたか」
「もちろん!」
 大きく頷いた団蔵は、懐から通知表を出す。「父ちゃん、はいこれ」
「おう…通知表か」
 今まではこちらから出せと言わない限り見せようとしなかった通知表を出すということは、よほど成績が良かったのだろうか、と思いながら飛蔵は通知表を広げる。だが、期待はすぐに落胆に変わった。
「はあ…相変わらずだな、これは」
 教科は全滅、実技も基礎体力以外はほぼ全滅という結果だが、本人は屈託なく笑いながら言う。
「うん! これがいまのおれだから」
「今の俺、か…そうか」
 変に落ち込むよりはいいのだろうが、あまりにポジティブすぎるのも問題だ、と思いながら飛蔵は小さく首を振ると通知表を返す。「ま、次は頑張れよ」
「うん…それだけ?」
 戸惑ったように団蔵が見上げる。
「ああ。清八と遠乗りに行くんだろ? 飯までには帰って来いよ」
 そう言うとおもむろに腰を上げて立ち去る飛蔵だった。

 

 

「それでね、小松田さんがケガちゃったから新野先生をよびにいかなくちゃって乱太郎がでかけたんだけど、そのとき清八が『まかせてください』って、むかえにいってくれたんだ! カッコよかったなあ」
 夕食時、学園での出来事を上気した表情で語る団蔵だった。
「なあ、団蔵」
 話が一段落したところで飛蔵が口を開いた。
「なに、父ちゃん?」
 気軽に団蔵が顔を向ける。
「お前は、忍者になりたいか?」
「もちろん!」
 ためらいなく言って団蔵は煮物を口に放り込む。
「そっか…だが、うちは馬借の家だ。そっちはどうする」
「そっちもやるよ」
 当然のように言い切る。飛蔵は当惑した。
「そうなのか? そんなこと、できるのか?」
「うん、おれもまだよくわからないけど、忍者にもいろいろなしゅるいがあって、草みたいにほかのしごとしながら忍者するみたいのもあるんだって」
「…そうか」
 よくは分からないが、どうやら忍者というものは、他の仕事と兼業できるものらしいと理解した飛蔵だった。
「それがどうかしたの?」
 ふたたび煮物をぱくつきながら団蔵が訊く。
「あ、いや…なんでもねえ」
 曖昧に頷いて汁をすする。つまり、団蔵が大名の手先として馬借の自由を内部から切り崩す存在になりかねない、という事実に変わりはなさそうだった。

 

 

「ぜったい父ちゃんへんだ」
 翌朝、清八と並んで馬の世話をしながら団蔵が断言する。「通知表みてもなにもいわなかったし、いつもはうるさいくらいはなしかけてくるのにぜんぜんそんなことないし、いきなり忍者になりたいのかなんてきいてきたり…忍者になりたいから忍術学園にいるのにさ!」
「…そうですね」
 応じる清八も歯切れが悪い。
「父ちゃんになにかあったの?」
 見上げるまっすぐな視線に清八は戸惑う。
「それが…私にもよく分からないんです。ただ、若旦那からお帰りになるというお手紙が来る前からちょっと様子はおかしいなとは…」
「そっか」
 団蔵が顎に手を当てる。そしてぽつりと呟く。「父ちゃん、おれに忍者になってほしくないのかなあ…」
「まさかそんな…」
 あれほど忍術学園で学んでいることを村の若い衆に自慢気に話している飛蔵がそんなことを腹の底で抱えているとは、清八には考えられなかった。むしろ団蔵に忍者をやらせる代わりに自分に加藤村の長になるよう言ってきていたのではなかったか。
「やっぱりおれ、父ちゃんにきいてくる!」
 言い出したら行動は早い。馬の世話も放り出して団蔵は母屋へと走り去る。

 


「な…んだと…」
 いきなり座敷に飛び込んできた息子に当惑する飛蔵だった。それも割合正鵠を得た指摘だけになお惑う。
「ねえ、どうなのさ! やっぱり父ちゃんはおれに忍者になってほしくないの?」
「そんなこと…誰から聞いた。清八か」
 息子が一人でそんな結論に至るはずはない。とすれば、そのようなことを思いつきそうなのは一人しかいなかった。
「清八はかんけいない! きのう、父ちゃんがきいたんじゃないか! 『忍者になりたいのか』って。それってつまり、なってほしくないからきいたんじゃないの?」
 -いつの間にか、そこまで考えることができるようになっていたのか…。
 痛い質問だったが、息子の成長も感じられて思わず感慨にふける。
「父ちゃんったら!」
 苛立たし気な足踏みに我に返る。
「ああ、そうだな…」
 ここは息子に向き合うべきかと考える。「あのな、団蔵」
「なに?」
「忍者ってのは大名の手先ってのはホントなのか?」
「え…」
 思いがけない問いにこんどは団蔵が言葉に詰まる。「そうなのかもしれないけど…」
「そうかもしれない?」
 飛蔵が怪訝そうに訊く。
「いやその…おれまだ忍術とか忍者の歴史とか、そういうのべんきょうしてるとこだから、これからどうなるとかそういうの、よくわかんないし…」
「…そういうものなのか…」
 つまり、学んではいるがその目的は分かっていないということである。唖然とした飛蔵が続ける。「てことは、忍者になろうがなるまいが、忍者の勉強を教えているということか、忍術学園は」
「あ、いや、その、そうじゃなくて…」
 父親があらぬ方向に思考を奔らせていると見取った団蔵が慌てて口を挟む。が、すでに手遅れだったようである。
「そういうことなら、今からやり直すこともできるってことだな…」
 ぶつぶつ言いながら腕を組む。
「ちょっとまってよ父ちゃん!」
 思わずその肩を揺する。「なんでそういう方向になるのさ…!」

 


 -どうしよう…。
 村はずれの小川の畔に座り込んで団蔵はぼんやりと川面に眼をやっていた。
 あのあと、飛蔵からは「忍者になるとはどういうことかも教えずに技術を教えるだけのような学園は信用できない」と言われ、自分は「どうしても忍者になりたいから学園にいるんだ!」と返して家を飛び出していた。
 -なんだろう、なんか、いいたいこととちがうことばっかりいってるみたいだ…。
「ここにいたんですか」
 背後からの声に団蔵は振り返った。
「清八…」
「聞きましたよ。親方とケンカされたとか」
「だって…」
 ふたたび川面に眼を戻した団蔵は膝を抱える。「忍術学園はしんようできないって父ちゃんが…」
「親方は若旦那を心配されているんですよ」
 ならんで腰を下ろしながら清八は言う。
「そうかな…」
 清八の言うことは素直に受け入れられる団蔵は考え込む。確かに父親の様子が変なのも、自分が本当に忍者になれるのかを案じてのことなのかもしれない…。
「ねえ、清八」
「なんですか」
「さっき父ちゃん、忍者は大名のてさきなのかってきいたんだ。それも、おれのことしんぱいしてるってことかな」
「大名の手先?」
 清八が鸚鵡返しに訊く。「親方がそんなことを?」
「うん…たしかにいろんな城に忍者はいるけど、でもフリーの忍者だっているし…」
「そう親方にはお話ししたんですか?」
「ううん。そのまえに父ちゃんがへんなこといいはじめたから…でも…」
「どうしましたか?」
「もし、もしもおれがドクタケやドクササコみたいなわるい城といっしょににんむをしなきゃいけなくなったらっておもったんだ」
「そんなこともがあるんですか?」
 ドクタケやドクササコといえば、加藤村の物流機能を虎視眈々と狙っている城である。いずれは自分たちの上に立つ者が、そんな連中の手先になるということなどありうるのだろうか。
「忍者はぜったいににんむをはたさないといけないんだ」
 教師たちからの教えを苦し気に口にする団蔵だった。
「じゃ、若旦那も…?」
「いや」
 まさかと思いながら口ごもる清八に、団蔵が決然と言い切る。「おれは加藤村の男だから、そんなことになるくらいなら忍者なんてやめる! なんなら忍術学園をやめたっていい!」
「え、いや、そこまでは…」
 むしろ団蔵には自分の思う道を歩んでほしいと望む清八だった。
「いいんだ!」
 遮った団蔵が立ち上がる。「おれ、父ちゃんにいってくる! 加藤村のためなら、忍術学園やめるって!」
 言うや駆け出す団蔵だった。
「若旦那…」
 おろおろと立ち上がる清八だが、すでに団蔵の背は遠ざかっていた。
 -思い込むと一途なんだから…。
 あとで飛蔵に説明しなければと思う清八だった。

 

 

「…なあ、喜六」
「はい」
 そのころ、座敷では飛蔵が喜六を相手に愚痴っていた。「どうしてあんなに頑固になっちまったもんかな…」
 -うわぁ、面倒な時にきちゃったな…。
 馬借便の配送を終えて伝票を届けに来ただけの喜六だったから、待ち構えていたように始まった飛蔵の愚痴にわが身の不運をかこつしかなかった。
 -こういうときの親方って面倒なんだよなあ…話長いし。
「そりゃ親子ですから、目につくところはあるってもんじゃないですか」
 例によって親子喧嘩が勃発したかと思った喜六が適当に話を合わせる。
「だけどよ…このまま団蔵が忍者になっちまったら、もしかしたら悪い大名の手先になって馬借の自由がつぶされちまうかも知れねえんだぜ…?
「若旦那がそんなことなさるわけがないじゃないですか」
 この場を早く立ち去りたい喜六は、まずは飛蔵を落ち着かせることにした。
「団蔵は忍者になりてえと言ってた…」
 深いため息をつく飛蔵だった。「団蔵がそう望むなら、俺だってそうさせてやりてえさ…」
「ならそうお話しなさればいいじゃないですか」
 気軽に喜六は言い切る。「親子だからってなんでも通じるとは限らないもんですぜ?」
「親子…か、そうか」
 ふと気がついたように飛蔵が呟く。喜六の言うとおりだった。自分は加藤村の長として馬借の自由を守る義務を負っている。一方で忍者を目指す団蔵を支えたい気持ちもあった。たとえそれが大名の手先として馬借の自由を侵すものであったとしても。そう率直に話せばいいのだ。
「なあ、喜六。団蔵を呼んできてくれ…」
 言いかけたとき、どたどたと廊下を走る音とともに「父ちゃん!」と声がして呼ばせようとした本人が座敷に飛び込んできた。
「団蔵…」
 これ幸いとそっと座を外そうとする喜六に気づかず飛蔵が呆然と声を漏らす。
「父ちゃん! おれ…」
 端座した団蔵が一瞬言いよどむが、すぐに顔を上げてまっすぐ見つめて続ける。
「おれ、忍術学園やめる! 加藤村のためならおれ…!」
「何言ってやがる団蔵! なんのために学園に通わせていると思ってるんだ!」
 息子の思いがけない台詞に思わず怒鳴りつける飛蔵だった。だがそれで引き下がる団蔵ではない。
「だからいってるだろ! おれ、このまま忍者になったらわるい城のてさきになるかもしれない。そんんなのやだから…!」
「俺の言うことを聞け、団蔵!」
 肩をつかんで飛蔵は声を荒げる。
「ちがうって、父ちゃん!」
 団蔵もむきになって食ってかかる。
「いや、親方も若旦那も…」
 なだめようとする喜六だが親子喧嘩は止まらない。
 -だめだ、清八を呼んでこよう…。
 そっと座敷を抜け出す喜六に眼もくれず飛蔵と団蔵のやり合いは止まらない。
「俺が忍術学園に通えってのになんの文句があるんだ!」
「おれが忍者になったら加藤村が…!」
「んなことはどうだっていいんだ! 俺は団蔵がな…!」
「だから父ちゃん!」
「親方も若旦那も、何やってるんですか」
 駆けつけた清八が割って入る。
「清八…!」
「だって父ちゃんが…!」
「何が原因か知りませんが、親方も若旦那も私たちの上に立つ人なんです! ケンカなんてしないでください!」
 飛蔵と団蔵の言い分をすっかり無視した清八が声を張り上げる。「お二人にケンカされちゃ私たちが困るんですっ!」
「清八…」
 呆気にとられた二人だった。

 

 

「親方! 若旦那はとっても忍者になりたがっているんです! でも、加藤村を護るためなら忍者にならなくてもいいっておっしゃっていたんです! 親方はずっとなにやらお悩みになってましたけど、それも加藤村を護ることですよね? お二人とも同じことをお考えなのに、どうしてケンカになるんですか! 私にはぜっんぜん分かりません!」
 憤然と清八が言い募る。
「団蔵、お前…そんなことを思ってたのか?」
 すっかり毒気を抜かれた飛蔵がおどおどと息子に向き直る。
「うん…父ちゃんも?」
 つぶらな眼を精一杯見開いて団蔵が見上げる。
「うむ、まあ、しかし…」
 何がしかしか自分でもわからないまま、曖昧に咳払いしながら飛蔵が眼をそらす。
「父ちゃん、ごめんなさい!」
 唐突に団蔵が頭を下げた。
「お、おい、団蔵…どうした…」
 慌てて向き直った飛蔵がたじろいだように腰を浮かして息子へと腕を伸ばす。
「だって…おれ、父ちゃんがそこまでかんがえてくれてたのに、じぶんのことしか…」
「あのな、団蔵」
 伸ばした腕で団蔵の肩を掴みながら飛蔵は語りかける。「そういうことを考えるのは親の役目だ。お前は、自分のやりたいようにすればいい。忍者になろうが馬借になろうが、ほかのものになろうが、俺はお前を応援する」
「でも…」
「よく聞け、団蔵」
 飛蔵は吹っ切れたように力強く続ける。「親ってのはな、子どもが望むようにさせてやれるのが何よりうれしいんだ。さっきは俺も言い過ぎた。すまなかったな」
「でも、おれ…」
 ふいに団蔵が顔を伏せる。「まだ何になりたいなんて、きめられないよ…」
「あったりまえだろ」
 意外な飛蔵の台詞に弾かれたように団蔵が顔を上げる。「まだお前は忍術学園に入って一年も経ってねえんだ。そんくらいで何になるかなんて決められてたまるか。ゆっくり考えりゃいいんだよ」
「…うん」
 こくりと頷いて団蔵は父親の身体に顔を寄せる。
「分かればいい」
 その頭をそっと抱えながら飛蔵も小さく頷く。「分かればいいんだよ…」
 -やれやれ、やっと仲直りしてくれた…。
 ようやく安堵のため息をつく清八だった。
 -親方も若旦那もすぐにムキになりなさるから…でも、それも、お二人とも加藤村のことを本当によくお考えだからなんだ…。
 そして思う。だから、自分たちはこの村で生きて行こうと決めたんだ、と。

 

<FIN>

 

 

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