Rera

 

網問とは、アイヌ語のアトゥイ(海)にちなむ名前なんだそうで、そう聞いてしまうとなんとなく網問のルーツもアイヌに求めてしまいたくなるものです。

アニメでは元気でお調子者といったイメージの子ですが、ホームシックになったときに、ふと北の海に吹き渡る風(Rera)が似合う寂しげな表情を見せたりしたら萌えるぜ! と思ってしまう自分が止められませんw

 

 

「重、航、網問! そんなところで何してるんだ?」
 磯にしゃがみこんで何やらしている三人に、間切が声をかける。
「あ、間切兄ィ! 俺たち、タコ釣りしてたんです!」
「見てください! こんなにとれましたぁ!」
 立ち上がった三人が手を振ったり腰に提げていた魚籠を持ち上げてみせる。
「そっか。それより、親方が呼んでいる。すぐ水軍館に戻るんだ!」
「「は~い!」」
 岩のごつごつした磯辺を身軽に飛び越えながら三人がやってくる。探していた連中が見つかってほっとした間切が、踵を返して水軍館へ戻りかけたところで、急に口を押えてうずくまる。急速に陸酔いの症状に見舞われたようである。

 


「お前たちに集まってもらったのはほかでもない」
 水軍館の広間に兵庫水軍のメンバーがずらりと居並ぶ。上座で重々しく口を開いた兵庫第三共栄丸に、陽焼けした男たちが一斉に顔を向ける。もっとも鬼蜘蛛丸と間切は陸酔いで青黒くなった顔を時折傍らの桶に突っ込んでいる。
「こんど、室津から堺まで荷物の運送を依頼された。貴重品ということで、海賊が狙ってくる可能性が高い。だから、気合入れてやってほしい」
 兵庫第三共栄丸が言葉を切ると、水軍メンバーから当惑したようなざわめきが上がった。
「ですが、我々水軍は、いつもならそういうものを運ぶ船の警備につくことはあっても、直接運ぶということはあまりしないはずでは…」
 皆の当惑を代表して蜉蝣が声を上げる。
「まあそうなんだけどよ」
 急に砕けた口調で兵庫第三共栄丸が答える。「実は室津まで荷を運んできた船でストがあったらしくて、四功から水夫までみな船から降りちまったということだ。代わりの船も見つからなくて、しょうがないから警備につく予定だった俺たちに泣きついてきたというわけだ」
「そ、そうですか…」
 一斉にため息が漏れる。自分たちの親方は、そう言われると弱いことはよく分かっていたから。

 


「気をつけて運べよ」
「その箱はここに置いてくれ」
 水軍の安宅船に次々と荷が運び込まれる。物珍しげに若い水夫たちが集まってくる。
「すげぇ、なんだこれ」
 筵に包まれた毛皮に興味深そうに手を伸ばした航が眼を輝かせる。
「どうした?」
 重がひょいと顔を突き出す。
「すごいぜ、重! この毛皮、さわってみろよ。つやつやしてて、柔らかくて、絹みたいだ!」
「どれ…お! マジ、すげえ柔らかい!」
「おいおい、預かった荷物だ。勝手に触るな」
 航と重の声に、やってきた由良四郎がたしなめる。
「でも由良四郎さん、これ、マジすごいっすよ! なんの毛皮なんでしょう!?」
 弾んだ声で航が訊く。
「ああ、これは水豹(アザラシ)の皮だ。遠い蝦夷で取れると聞いたことがある」
 顎に手を当てた由良四郎が説明する。
「蝦夷かぁ…蝦夷ってどんなとこなんだろう。な、網問!」
 アザラシの皮に視線を吸い取られていた網問が、航の声にはっと我に返る。思わず呟く。
「…トッカリ…」
「は?」
「なんだ、トッカリって?」
 航たちが怪訝そうに目を向ける。
「い、いや…なんでもないです」
 慌てて苦笑しながら網問が後ずさりする。そして思わずにはいられなかった。
 -これは、北の海…俺の名前にちなんだ海でとれた生き物の皮なんだ…。
 冬、一面に埋め尽くされる氷に乗ってやって来るアザラシの皮だった。
「水豹のことを、トッカリっていうんです…俺たちの言葉で」
 なかばひとり言のように網問は説明する。
「そっか…遠い蝦夷には、俺たちとは違う言葉を使う人たちがいるんだな」
 由良四郎が腕組みをして頷く。
「じゃ、この水豹は、どうやって捕まえるんだ?」
 重が興味深そうに訊く。
「北の海は、冬には遠くからやって来るアプ(流氷)で埋め尽くされて、その上を歩けるほどなんです。トッカリ(アザラシ)はアプに乗ってやって来るんです」
 だが、説明する網問にも、アザラシのやってくる流氷は知らない。ほんの小さなころ、家族や村の誰かの話を、焚火のほとりで膝を抱えて聞いた記憶があるきりである。
「なんかすげえな。網問はそのアプってやつを見たことはあるのか?」
 網問の説明を理解しているのかいないのか、無邪気に重が訊く。
「い、いや…アプが来る海は蝦夷でもずっとずっと遠くにあるから…」
 網問が口ごもる。
「ふ~ん。そんなに遠い海から来たんだな。こいつも」
 感心したようにもう一度毛皮を触りながら重が言ったとき、船内に法螺貝が鳴り響いた。
「いっけね、出航だ! おい、配置につくぞ!」
「は、はい…」
 ばたばたと駆け出す重たちに続いて、何やら考え込んでいた網問も慌てて後を追う。

 


 -トッカリの皮だ…。
 船は無事に堺の港に着いた。人足たちがつぎつぎと乗り込んでは荷を運び出している。船縁に寄りかかって、網問はその様子をぼんやりと眺めていた。
 -そういえば俺、蝦夷の海のこと何にも知らない…。
 アザラシの皮を眼にしたときから心に引っかかっていた疑問が、いま、じわじわと膨らみつつあった。
 -生きてるトッカリを見たこともないし…。
 話に聞いた、流氷の海で獲れるというアザラシの生きた姿を、網問は見たことがない。見たことがあるのは、交易品として毛皮にされたものだけである。
 -俺の名前は、蝦夷の海にちなんでつけられているのに、俺、蝦夷の海の何を知ってるんだろう…。
 蝦夷の海で思い浮かべることができるのは、青黒く渦巻き、冷たい風が吹き渡る夏の海の一瞬の光景しかなかった。そこで、自分はいったい何をしていたのだろうか。結局のところ、蝦夷の海の名前を負い、蝦夷の言葉を少し分かることだけが、自分と蝦夷の地をつなぐか細い糸だった。
 -兵庫の海のことならたくさん知っているのに。
 それは、自分にとって致命的な欠陥のように思えた。
 -でも、蝦夷の海のことは何も知らないんだ…。
 口を引き結んで、いつしか視線はうつろに彷徨っている。折から吹きつける風がまっすぐな髪を巻き上げる。

 

 

 -どうしたんだ? 網問のヤツ…。
 網問の様子がいつもと違うことに最初に気付いたのは重だった。
 -あんなところでボーっとしてるなんて…。
 船縁に寄りかかって荷揚げを眺めている放心した表情は初めて見るものだった。だから、声をかけてみる。
「おい、網問! どうしたんだよ、そんなところで」
「え? あ…重兄ィ」
 我に返ったように網問は振り返る。その表情には取ってつけたような苦笑いが貼りついている。
「…すいません。俺、なにかやることありましたっけ?」
「そうじゃないけどよ」
 網問に並んで重も船縁に寄りかかる。「なんかいつもと様子が違うけど、具合でも悪いんじゃないかと思ってさ」
「そ、そんなことないっすよ! 俺、いつも通り元気ですよ」
「そうかあ?」
 疑わしげに重は言う。
「そうですよ! いやだなあ、重兄ィ、この俺が具合が悪いなんてありえないっすよ。あ、そうだ! 俺、鬼蜘蛛丸さんに呼ばれてたんだ! じゃ、失礼しますっ!」
 最後まで重に眼を合わせずに言うだけ言うと、網問はばたばたと屋形へと走って行った。
「やっぱおかしい…」
 その背中に眼をやりながら、重は呟く。だが、その理由はなんとなく想像がついた。
 -きっと、あの水豹の毛皮のせいだ…。
 毛皮を眼にした網問の憑かれたような眼は初めて見るものだった。そしてその後の心ここにあらずといった様子も。
 -遠い蝦夷の海を思いだしちゃったんだ…。
 それも無理からぬことに思えた。まだ十六歳の少年である。故郷をはるか遠く離れ、思いがけず眼にした故郷の海の産物にホームシックをおぼえても無理はない。
 -だけど、どうすればホームシックをなくしてやることができるんだろう…?
 それは重にはあまりに難しい問題だった。だから、ライバルでありながらいちばん頼りにしている先輩の面差しが脳裏を過ぎる。
 -ちょっと舳丸さんに相談してみよう。 

 


「なに? 網問がふさぎこんでる?」
 海図を覗き込んでいた第三共栄丸が顔を上げる。傍らにいた鬼蜘蛛丸や由良四郎たちも怪訝そうな表情を向ける。
「はい」
 重に相談された舳丸が短く答える。
「そういや網問のヤツ、最近シケた顔してたな…」
 疾風が腕組みをして呟く。表向きいつもどおり元気で調子のいい様子を繕っているが、時折見せるふさぎ込んでいる表情に、多くの水軍メンバーが気付き始めていた。
「原因は、なんだ?」
 由良四郎が訊く。
「よく分からないのですが…重の言うには、このまえ運んだ荷物を見て、蝦夷に里心が出たのではということですが」
「このまえ運んだ荷物? …ああ、あの水豹の毛皮とかのことか?」
 顎に手を当てた第三共栄丸がひとり言のようにいう。
「はい…たぶん」
「だが、どうすれば網問が元通りになるんだ?」
 兵庫第三共栄丸が誰にともなく訊く。その場にいた全員が考え込む。
「…もしかしたら、水豹のいる蝦夷の海を見せてやれば、少しは気が紛れることも…」
 沈黙を破って舳丸がぽつりと言う。
「だが、俺たちは兵庫の海で生きていく者だ。商人たちのように蝦夷や南蛮に行くということはありえない。どうしても蝦夷の海を見たいというなら、兵庫水軍に留まるわけにはいかない」
 しぶい表情で疾風が指摘する。
「だな…」
 皆が腕を組んだりこめかみに手を当てたりしてふたたび考え込む。そして兵庫第三共栄丸は黙然と天井に眼をやっていた。

 

 

 -あーあ、俺としたことが…。
 天井板を見つめながら網問は考える。
 -こんなことくらいで寝込んでるなんて…。
 足をくじいた網問は、水軍館の一室に寝かされていた。
 堺から兵庫に戻る途中の航海で、手入れしていた武器を倉庫に運んでいた網問は、急な波でぐらりと揺れた瞬間、身体を支えきれずに転倒してしまったのだった。両手がふさがっていたのだから仕方がないだろうと仲間たちは言ってくれたが、海の男としてはありえない失態だった。
 -俺がぼんやりしてたから…。
 そのとき考えていたのは、結局自分は何者なのだろうというあまりに漠とした疑問だった。いろいろなきっかけの重なりがあって、いま、自分は兵庫水軍の一員として兵庫の海にいるが、それは自分にとって何の意味があるのか、という問いが次々と変遷して、ついに自分でも手の付けられない疑問に追い込まれていた。
 -俺、ずっとこんなこと考えなくちゃいけないのかな…。
 若い網問には、今までにない深刻な事態だった。このまま一生、こんな懊悩を抱えて生きて行かなければならないのかもしれないと考えるだけで、頭が破裂しそうに痛くなるのだった。
 -なんでこんなこと考えるようになっちゃったんだろ…俺、水軍で働いているだけで十分だし、重や間切たちと遊んでれば楽しいし、それだけなのに…。
 考え疲れて、視線を天井から格子窓に泳がせる。遠くからカモメの鳴く声が聞こえる。

 


「網問の足が治ったら、福原に行かせる」
 その頃、水軍館の広間には、水軍の幹部たちが集まっていた。唐突な兵庫第三共栄丸の言葉に、皆が当惑げに顔を見合わせる。
「福原に行かせて、どうするのですか」
 皆の視線に圧されて、由良四郎が訊く。
「俺の知り合いで、大坂の商人に雇われて蝦夷とこっちを行き来している船頭がいて、そいつはいま、福原にいる。そいつに話をして、一度網問と会ってもらおうかと思っている」
「てことは、網問を蝦夷にやるということですか?」
「まあ、どうなるかはアイツらの話次第だ」
「じゃ、もし網問が、親方のお知り合いの船に乗ることになったら…?」
 うろたえたように鬼蜘蛛丸が声を上げる。
「当然、兵庫水軍を離れることになるな」
 腕組みをした蜉蝣がむすりと言う。
「親方は、それでいいのですか」
 由良四郎が静かに訊く。
「…」
 押し黙ったまま兵庫第三共栄丸が腕を組む。重苦しい沈黙に押さえつけられたように皆が俯く。
「…そうだな」
 ぐすっと鼻を啜り上げながらの声に皆が思わず顔を上げる。兵庫第三共栄丸だった。袖でぐいと眼をこすりながら続ける。「網問は俺たちの大事な仲間だ。だが、俺は仲間にとって何が一番かが最優先だと考えている。もし網問がその蝦夷の海とやらに行くのが一番幸せだというなら、俺はそれを止めようとは思わない」
 涙声のまま兵庫第三共栄丸が続ける。「それで網問が元気になるなら、俺たちはそれを受け入れるしかないんだよ…」

 


「ほう。で、名前は?」
 数日後、網問は兵庫第三共栄丸に紹介された船頭のもとを訪ねていた。
「網問といいます」
 端座した網問が固くなったまま答える。
「アトイ? かわった名前だな」
「はい…蝦夷の言葉で海という意味です」
「ほう?」
 相手の視線が一瞬、鋭く光った。「君は蝦夷の言葉が話せるのか」
「はい…少しは」
「なるほどね。で、年は?」
「十六です」
「十六か…ずいぶん若いな。だが」
 網問の眼を見据えながら相手は続ける。「聞いているだろうが、俺たちは越(北陸地方)から蝦夷を行き来しながら商売をしている。だが、越はともかく蝦夷は言葉がぜんぜん違って困っていたところだ。いつも通訳が手に入るとは限らんからな。そういうとき、蝦夷の言葉を話せるお前のような者が役に立つ」
「は、はあ…そういうもんですか」
 上目遣いに相手を見上げながら網問が答える。
「それにな」
 筋肉の発達した網問の二の腕を軽くはたきながら相手は頷く。「水夫(かこ)としてもしっかりやっているようだし、通訳としても役に立つなら俺たちとしては大歓迎だ。どうだ。俺たちと一緒に仕事をしないか」
 相手は網問が気に入ったようである。
「は、はあ…少し、考えさせてください」
 とっさの返事に、相手は意外そうに眉を上げる。
「…わかった。いい返事を待ってるからな」

 


 -なんであんな返事をしたんだろう…。
 帰りの道々、網問は考え込んでいた。
 -せっかく親方がつけてくださった話なのに、それに蝦夷に行くことだってできるのに…。
 まだ寝込んでいた自分の枕元にどっかと胡坐をかいた兵庫第三共栄丸は、もし自分が望むなら蝦夷の海に行ってみるといいと言ってくれた。それで迷いが取れるなら、それもひとつの方法だと。漂流した挙句に座礁した思考に困り果てていた自分には、願ってもない話だった。たしかに自分のルーツである海に行けば、何かの解決になりそうな気がした。
 -それなのに…。
 なぜ保留するような答えをしてしまったのだろうか。
 -それに、もっといろいろな仕事をさせてくれるって言ってくれたのに。
 今はまだ若いし、技術があるわけでもないから水夫としてやっていくしかないが、いずれは船で一目置かれる立場になりたいという若者らしい野心もあった。そんな思いを見透かしたように、蝦夷航路でのそれなりのポジションを提示されたのも事実だった。本来なら願ってもないチャンスである。それなのに、自分は返事を保留した。
 -もし、兵庫水軍をやめたら…。
 ふと仲間たちの顔が脳裏を過ぎる。
 -重や航たちとタコ釣りに行くことも、先輩たちに船具や武具の扱い方を教えてもらうこともできなくなるんだ…。
 もちろん、新しい船の仲間たちから同じようなことを教えてもらえることはあるだろうし、なにより兵庫水軍と違い、瀬戸内から蝦夷まであらゆる海の航海を経験することは、海の男として経験を積むにはまたとないチャンスとなるだろう。
 -あ~あ、どうしたいんだろ俺…。
 考え疲れた網問は、浜辺に座り込んでぼんやりと海を眺める。
 兵庫の海は狭い。海岸沿いに猟師の小舟がいくつも浮かび、沖を白い帆を上げた商船が行きかう向こうには、淡路の島影や讃岐の山影が望める。それは、見はるかす大海原のどこにも船影も見えず、ひたすら青黒い波の上をひやりとした風が吹き渡るだけの蝦夷の海とはまったく違う光景だった。
 -だけど、この海は蝦夷の海までつながっているんだ。そして、トッカリが棲む北の海のもっと果てまで。
 それなら、行こうと思えばいつでも行けるように思えた。だが、いま、共に過ごしている仲間たちは、離れてしまえばおそらく二度と会うことはない。
 -そんなのいやだ!
 ようやく自分の思いが見えてきたような気がして、網問は勢いよく立ちあがった。袴の砂を払うと走り出す。自分がいるべき場所に戻るために。一刻も早く。

 


「網問!」
「どうした。あっちに行ったんじゃ…?」
 水軍館に駆け込むと、仲間たちがいっせいに当惑げな視線を向けながら腰を浮かした。
「なにいってるんですか!」
 息を切らせながら網問は叫ぶ。
「…俺、まだまだここでやることがいっぱいあるんです! 重兄ィや航兄ィたちとタコ釣りに行かなきゃならないし、舳兄ィに水練のこと教えてもらわなきゃならないし、東南風兄ィや間切兄ィたちと出番争いもしなきゃならないし…!」
「わかったわかった…」
 奥から兵庫第三共栄丸が出てくる。緩みかけた頬を何とか引き締めようとしながら腕を組んで頷く。「それならな。お前がやるべきこと全部やって気が済むまで、ここにいろ」
「はいっ!」
 眼を輝かせて大声で返事する網問にぶつかるように駆け寄った重と航が肩を組む。
「ようし、それじゃ今からタコ釣りに行くぞ!」
「ついでに磯でサザエやトコブシも採ろうぜ!」
「じゃ、俺は水練を教えてやる」
 こほん、と照れ隠しのように咳払いをしながら舳丸が言う。
「あ! ずるいですよ舳兄ィ! 水練なら俺が…」
 すかさず重が割って入る。
「黙れ! ここは兵庫水軍一の水練の者である俺がだな…」
「俺だって、最近は実力あがってるんですよ!」
 重と舳丸がわいわいと言いあう。

 


「ったくやかましい連中だ」
 蜉蝣が大仰にため息をつく。
「まあ、仕方がないですよ。アイツら、網問がいない間、本当にしょげ返ってましたから」
 鬼蜘蛛丸がとりなすように言う。
「やっぱり、兵庫水軍は全員そろってないと、てとこだな」
 由良四郎がまぶしそうに眼を細める。
「そういうこったな」
 兵庫第三共栄丸が、大声ではしゃぎながらタコ釣りの磯に駆けていく網問たちの後ろ姿に眼をやる。そして、晴れ渡った空に顔を向ける。高い空に、カモメが一羽、風を切っていく。

 

<FIN>

 

 

 

Page Top