たどりつく場所

 

ようやく土井先生には忍術学園にたどり着いてもらいました。長くて暗い道のりでしたが、これでようやく土井先生にはは組っ子たちとの明るく楽しい日々が訪れるはずです。

長くオリキャラ満載捏造三昧の過去話でしたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 

 

    はじまりの場所へ   REGO~はじまりの場所へ~

    捕囚         REGO~捕囚~

    奈落         REGO~奈落~

    Intermezzo

    脱出         REGO~脱出~

    たどりつく場所    REGO~たどりつく場所~

 


 これほど長い水練は、修行時代にも経験したことはなかった。昼間に船から陸まで半里と目測したことに疑いはなかったが、真っ暗な夜の海で、伏せた桶につかまりながら泳ぐことは、体力的というより心理的に、半助をくるしめた。
 -まるで、墨汁の中を泳いでるようだ。
 潮の流れが、陸と並行に南側に向いている。このまま流れに攫われて、淡路との海峡の渦潮に巻かれるかもしれないという考えが頭をよぎって、半助は頭を激しく振った。
 -淡路まではまだまだ遠い。陸はすぐそこではないか。なにが危険なものか。
 自分を鼓舞しながら、ひたすら手足を動かす。渦潮に巻かれるより先に、もっと現実的な危険として、このまま夜が明けてしまうことを恐れた。
 -このまま、桶につかまって漂流しているところを誰かに見られたら、どうする。
 だから、泳がなければならない。命ある限り。

 


 半助が泳ぎ着いたのは、石山の町の外れだった。浜辺近くにも、数軒の家が建っている。
 ここまでつかまってきた桶を、できるだけ沖に向かって放ると、半助は、荒い息を袖で押さえながら、足音を忍ばせて街の中へと姿を消した。

 


 半助が石山の町にもぐりこんで数日が過ぎた。本願寺のお膝もとの街は、各地から逃げ込んだ一向衆

や、それにまぎれて流れ込んだ浪人や食い詰めた者たちでごった返していた。彼らは空き家や荒れ寺に入り込み、酒や博打や怪しげな商売で日々をしのいでいた。そんな流れ者の群れの中に、半助は身を潜めていた。
「おい、聞いたか」
 今日も明るいうちからへべれけに酔った男が、酒臭い息を吐きながら傍らの男に話しかける。
「なんだい」
「黒松の城下で、またわからん人狩りが始まってるんだってよ」
「人狩り?」
「そうよ。素性の知れない連中が、城下の町を荒らしてるんだってよ」
「一揆勢の間違いじゃねぇのか?」
 別の男が会話に加わる。
「それが、そうでもなさそうなんだ」
 最初に話した男が、仔細気に声を潜める。
「…それがよ、一揆勢を装っているがどうやら違うらしいんだ。ウワサでは、裏で忍者が手を引いてるってことらしいぜ」
「ホントかよ」
「おい、もうよせ」
 ふいに、奥の暗がりからしゃがれ声がした。
「んだよ、爺さん」
 話していた男が口を尖らせる。
「知らんのか。この石山の町には、俺たちみたいな流れ者もいるが、各地の城の手のものもうじゃうじゃ入り込んでいるんだ。めったなことを言うと、どうなるか知れたもんじゃないぞ」

 


「お前さん、見ない顔だな。どこから来なさった」
 気が付くと、隣に座り込んでいた男が語りかけていた。
「俺は河内の者だ」
 とっさに河内の言葉で半助は答える。
「河内なら近在じゃねぇか」
 男の言葉には、なにもそんな近くからわざわざ石山に流れ込む必要はないだろうというニュアンスが含まれている。
「俺が戦で雑兵に取られている間に、家も畑も戦ですっかりやられちまった」
 誰に聞かれてもいいように用意していた答えを口にする。
「そっか、お前さんも似たようなもんだな」
 男がひとりごちる。半助はそれ以上答えることなく、膝を抱えたまま視線を泳がせる。だが、続けて男が口にしたセリフに、その眼が見開かれた。
「そういや知ってるかい。播磨の黒松殿が摂津の海を海上封鎖してるんだってよ…どうやら、狙いは黒松の御領内で一揆をおこした連中がこの石山に逃げ込んでいるのを引き渡せってことらしい。福山の連中が多かったことから、福山一揆とも言われてるようだぜ」
「俺には、関わりのねぇこった」
 動揺を悟られないように、膝を抱えたまま半助は吐き捨てるように言う。
「ま、そりゃそうだな」
 興味を亡くしたように男もそっぽを向く。そんな半助たちを鋭く射る視線があった。

 


 ふらりとその場を立った半助は、そのまま土埃の立つ通りへと歩み出す。先ほどの会話の後に、あの男と同じ空間にいることが気まずく感じられたし、なんとなく居づらい雰囲気を感じたからでもあった。要は理屈ではなく、感覚的にその場を離れた方がよさそうに感じたのだった。またそういう感覚に間違いはなかったのである。
 -ずいぶん酔っているな。
 通りに出た半助は、ふらつきながら眼の前を歩く男に注意を引かれた。昼間からかなり飲んでいるのだろうか。少し離れたところに立っている半助にも、男の身体から酒臭さが漂っていることがよく分かった。と、男が足をもつれさせて半助の方へとよろめいてきた。
「おっと」
 とっさに腕を差し出して男の身体を支える。と、次の瞬間、首筋に冷たい感触が当たっていた。
「土井半助…いや、勢至丸だな」
 吐き出す息からも顔を背けたくなるほどの酒臭さが放たれていたが、男の手に握られた小刀は、正確に半助の頸動脈の上に押し付けられていた。
「なにものだ…お前は」
 こうもあっさり敵の術にはまったことがむしろ驚異だった。以前ならこの男を眼にした瞬間から自分の中で鳴り響いていたはずのアラートがすっかり錆びついていた。かくてあっさりと敵に近づき、逃れられない事態に至っている。
「土井半助だな」
 半助の問いに答えることなく、男はもう一度繰り返した。
「だったらどうした」
「来い」
 頸動脈に当てられた小刀は、男の掌に巧妙に隠されている。外から見たものは、半助がすっかり酔いつぶれた男の腕を首にまわして介抱しているようにしか見えないだろう。
「私をどこにつれて行く」
「来れば分かる」
 男もまたかなりの手練れの忍らしかった。動きにまったく隙はなく、半助が相手の動きに乗じて脱出しようとする企てを完全に封じていた。

 


「弾正は、絶対に臨検すべきとの意見です」
 黒松城の政所執事の間の主人である二郎左衛門の前で、政所代の兵衛が報告する。
「だが、その結果どうなるかを考えよ」
 二郎左衛門が腕を組む。
 -ここで例の室津船の臨検などすれば、どうなることやら。
 すでに海上封鎖から日も経ち、黒松側も本願寺側も手詰まりの状況が続いていた。ここで臨検など行えば、たちまち政治的なハレーションが起こることは眼に見えていた。
「我らが探している積荷が首尾よく見つかればまだしも、余計な『積荷』を見つけてしまった日には大ごとになる…そもそも、本願寺への要求は、石山に逃げ込んだ一揆勢の引き渡しだ。ここで船にこだわればこだわるほど、我らの狙いを明かしてしまうことになる」
 -余計な『積荷』つまり、火器ということか…。
 二郎左衛門の言うことももっともで、兵衛は頭を垂れたまま考え込む。だが、続けて口にした台詞にはっとして顔を上げる。
「ついでに言えば、もはやあの船には用はないと言ってもいいかも知れぬ」
「用がないとは…? 土井はあの船に逃げ込んでいるのでは」
「侍大将方から情報提供があったのだ。福原一揆を追って石山に潜らせた侍所が雇った忍が、土井によく似た人物を見かけたとな。本人は河内から流れてきたというようなことを言っておったようだが」
「つまり、土井は船を脱出したと? しかし、何のために…」
 黒松の城を爆破し、本願寺のチャーター船に潜らせてまでその身柄を手に入れようとする勢力もまた、半助の味方ではなかったということか。
「しかし、すでに石山に潜っているということは、いずれ堺かどこかへ逃げ込むのでは?」
 石山の背後には、半助が逃げ込めそうな場所がいくらも控えている。京や堺の雑踏も、叡山や高野山のような半ば独立国家のような宗教勢力も、身を隠すには容易で、探索するには大きな障害だった。そしてそれらの更に向こうには、もはや黒松が手を出すにはあまりにも広漠とした東国があるのだ。
「その危険はある。だから、侍大将方の忍を、石山から出る街道沿いに目立つように重点配備するよう依頼した」
「デモンストレーションですか」
「そうだ。それがどこまで効果があるかは分からぬが、少なくとも当座は下島一門も土井を石山から連れ出すことをためらうだろう。その間に、石山で土井を見つけ出さねばならぬ」
「見つけ次第、消してしまった方がよいのでは」
「うむ…それもある。御家老様はその路線だ」
 自分が口にしようとしてためらったことをあっさり兵衛に言われて、二郎左衛門はもごもごと残りの台詞を呟いた。

 


「入れ」
 町外れに近い荒れ寺につくと、男は半助の背を突き飛ばした。思わず前へ何歩かよろめく。と、その足先に誰かの身体が当たった。
「す、すまない」
 慌てて声をかけるが、地面にうずくまったままの影は返事もしなければ動きもない。
「よお、お尋ね者さん」
 奥の薄暗がりから凛とした声が響いた。
「何者だ」
 半助が眉をひそめる。歩み出てきたのは、傾(かぶ)いた若衆のような派手な身なりだったが、声は若い女のものだった。
「福原一揆のアジトへようこそ、勢至丸さんよ」
「福原一揆か…お尋ね者なのは、お互い様のようだな」
 女の口からだしぬけに自分の幼名が放たれたことに軽い動揺をおぼえながら、半助は低い声で答える。
「さすがは漆間の嫡男にして忍として生き延びてきた男だね。勢至丸と聞いても驚かないとは」
 半助の答えに取り合わないように、女は言う。
「私もすっかり有名人のようだな」
「それは間違いないね」
 女の返事に、背後の暗がりに控えた人影からくぐもった笑いが漏れた。
「そちらは、私については何もかも知っていると見える。そして、用があって私を連れてきたのだろう。だが、私はお前たちについて何も知らない。ここは、説明してもらう権利があると思うが」
 相手の眼をまっすぐ見据えながら、半助は声を上げた。
「説明…だと?」
 女の眼が細くなった。背後の人影が刀の柄に手をかけた気配がした。
 -だが、私には何の武器もない。
 忍具を仕込んでいた着物は、黒松の牢に入れられるときに取り上げれらている。それから室津船に救出されて、その船も脱出して堺に泳ぎ着いてからというもの、小刀ひとつ手に入れる暇もなかった。今の自分にあるのは、鍛え上げたとはいえ多くの武器の前ではあまりに無力な自分の肉体だけである。半助はあらためて、自分が女の前に無防備な裸をさらしているように感じた。
「まあいい。説明してやる」
 射るように半助を睨みながら、女は傍らにあった長櫃の上に腰を下ろすと、胡坐をかいた。
「お前を助けた室津船の船主は、我々の仲間だ。だから、物資の調達や黒松の領内から逃げ出すときなんかには、いろいろ世話になっている…だが、驚いたね。黒松の城下で積んだ荷物が、まさか勢至丸のなれの果てとはさ」  
 -つまり、彼らは、私と知らずに私の入った長櫃を積み込んだということか…ということは、彼らは城を爆破した連中とは別ということだな。
 そして、船の中で自分に食事を運んできた忍も、ここにいる福原一揆の一味とは別の動きをするために船に乗り込んだということなのだろう。
「何のために、私をここに連れてきた」
「城を爆破してまで助け出そうというのだから、お前を狙った連中もまた大層な勢力には違いないだろうね」
 相変わらず問いに答える気はないように、女は値踏みするような視線で半助の全身を眺めまわす。
「素性も知れぬ相手に、身代金を取るつもりか」
 あえて挑発的な言葉を投げかける。だが、女の表情は変わらない。
「まあ、高く売りつけてやるさ」
「さて、買い手がつくかな」
「なんなら黒松に売りつけてやるさ。もちろんたっぷり吹っかけさせてもらうけどね」
「黒松に追われているのはお前たちも同じだろう。そんな相手から買うものかな」
「言っておくけど、我々はお前の味方ではない」
 ふいに女の声が固くなって、半助は背中に冷や水を浴びせられたような気がした。
「どういう…ことだ」
「我々は福原一揆だと言ったはずだ。それでなにも勘付かないほどオメデタイとはね」
「…」
 黙って女の言葉の続きを待ちながら、半助はいつの間にか握った掌にじっとりと汗をかいていることに気付いた。

「お前がさっき蹴とばした婆さんは、板倉の刀自(妻)だ。どうだい、蹴ったときに懐かしいと思わなかったかい」
 掌の汗がどっと増えた。
「板倉…頼重の家刀自殿と…?」
「おやおや、気付かなかったと見えるね。ガキだったとはいえ忠義ある家臣の刀自すら憶えていないと

は、ずいぶん冷たいことだね」
 女の揶揄する声を無視して、弾かれたように半助は地面にうずくまる人影に向かって片膝をつく。
「家刀自殿、気付かぬことで、たいへん申し訳ありませんでした」
「…」
 だが、老女はおびえたような目つきで半助を見やると、這いつくばったままごそごそと離れようとする。
「お忘れですか、勢至丸です。漆間の家の…!」
 こんなに大きくなった姿に怯えてしまったのではと思って慌てて声をかける。
「そのくらいでやめときな。刀自はもう気が狂っている」
 その場の空気を切り裂くような鋭い女の声に、半助の動きが止まる。
「板倉頼重は、お前の行方を吐くよう散々責められた挙句、車裂きになった。板倉の親族も女子供まで責められた果てに殺された。それを見せつけられた刀自は気が狂ったから、命だけは助けられた。だから我々がここまで連れてきた。板倉だけでない。島崎も重山も、漆間に仕えていた家はあらかた同じような目に遭った」

 -つまり、福原一揆の一党とは…。
「物わかりの悪いお前でももう分かっただろう。福原一揆は、漆間の家臣の生き残りさ。あの夜逐電したお前の行く先を吐かせるために殺された連中のね」
 女の声は平板なままである。あらゆる感情をそぎ取った声だ、と半助は感じた。
「…そうか」
 半助は女に向き直った。
「それなら、私に思うところはいくらもあるだろう」
 ばさり、と帯を解いて小袖を脱ぎ捨てると、どっかとその場に胡坐をかく。

「ご覧のとおり、私は何の武器も持っていない。だから、私を好きなようにすればいい。打ち据えられようが斬り捨てられようが構わない…私の罪は、そんなものでは贖えないだろうがな」
 それだけ言うと、半助は両ひざに掌をついて頭を垂れた。
「ぶっ」
 女の吐いた唾が、眼の前の地面を濡らした。
「つくづく漆間の世継ぎは頭が弱いようだね。こんな男のために殺された連中もさぞ浮かばれないだろうよ」
「どういう…ことだ」
 頭を垂れたまま、半助がうめく。
「忘れたのかい。お前は身代金のカタだと言ったろ」
 女の眼が一段と細くなった。
「まあ、好きにしろと仰っているんだ。その通りにして差し上げな」

「あの娘は、何者なのだ」
 腕をつかんで連行する中年の男に半助は訊く。
「福原一揆がどういう集団か、聞いていなかったのか」
 短く答える男の口調は、武士のものだと感じた。
「漆間家にかかわる者たち、ということか」
 半ば答えをあきらめてはいたが、なおも訊く。
「我々はみな、お前を知っている。お前はそうではないようだがな」
 それだけ言うと、男は奥の部屋に半助を押し込み、柱に後ろ手にくくりつけた。脱いだ小袖を傍らに放ると、男は何も言わずに部屋を後にした。
 -そうか。福原一揆は、漆間家の家臣団の生き残りだったのか…。
 それも、とりわけ悲惨な経験をした者たちの生き残りだった。
 -それもこれも、私が生き延びてしまったばかりに起こったことだ…。
 縛られたままぐったりと頭を垂れる。
 -つまり、私の身から出た錆ということか…それならば、受け入れるしかないのだろう。
 隙間風が露わな肌を刺す。
 -裸がなんだ。頼重や左近丞は、車裂きにされたのだぞ。
 そもそも車裂きは、下人が処せられる最悪の刑である。本来武士の身分を持つ者が受けるものではない。その残忍さ以前に、どれだけの屈辱を感じたことだろう。
 -私は、存在するだけで多くの者を死に導いてきた。今こそ、その支払いをする時なのだ。
 だからこそ、この身は誰にでも委ねよう。それが黒松であれ、自分を追う別の勢力であれ。

 


「なに…侍大将方の忍が土井を見つけただと…?」
 弾正が眼を細める。
「はい。石山で、福原一揆の者どもを探索中に発見したとか」
 眼を細めるのは機嫌が悪い証拠である。報告した部下は背中にひやりとした汗を感じた。
「ということは、連中は土井を消したのだろうな」
 城を爆破されてまでその身柄を奪われた以上、もはや黒松にとって半助の身は無用である。本願寺と交渉を始めるためにも、堺の福富屋と手を打ためにも、見つけ次第消すべしとは家中のコンセンサスだった。侍大将方の忍隊が発見したということは、当然消しているだろう。弾正としては、先を越された、ということになる。
「それが…妨害が入ったということです」
「妨害?」
 細められた目が意外そうに見開かれる。
「下島の者どもか?」
「そのようですが、確証はないとのことです」
「つまり、取り逃がしたということだな」
「はい」
 -ほう。
 部下の報告の意外な展開に、思わず表情が緩みそうになった。そして、その可能性をいろいろと考える。
 -つまり、土井はまだ生きている。それは、我らに挽回の余地があるということだ。我らが動けば、土井を狙う連中とその背後を探り当てることもできるだろう。
「それで」
 その事実が導く次の展開を考える前に、報告の続きを促す。
「侍大将方の忍を石山の周辺の街道沿いに配置して、土井の脱出を阻止するとのことです。政所代殿(兵衛)は、その間に我らに至急石山に赴いて土井を消すように、と」
「分かった」
 ぱし、と掌で膝を叩くと、弾正は立ち上がった。
「お前は侍大将方が石山のどこで土井を発見したか詳しく探ってまいれ。その間に石山に向かう準備をする。かかれ」
「はっ!」

 


 どれだけの時間が過ぎたのだろうか。外は日が暮れてきたらしい。格子窓からだいだい色の陽が差し込んでいた。後ろ手に縛られたまま、片足を折り、もう一方を投げ出したままうつむいていた半助の耳に、すり足で入ってくる足音が届いた。
 -老人の足音だ。
 忍として鍛えた聴覚が、とっさに判断する。そして思わず苦笑する。
 -これは忍の習い性だな。きっと一生なおるまい…。
 あらゆる兆候から相手の属性を探り出そうとする。それは、忍の修行中に叩き込まれた習性である。
 足音が止まる気配に、半助が顔を上げる。
「勢至丸さま」
 しわがれた老女の声に、記憶の深部をまさぐるような感覚をおぼえた。
「あなたは…?」
 薄暗い部屋の中で、深い皺が刻まれた顔を伏せ気味にした老女の貌に何らかの記憶を結び付けることはできなさそうだった。
「お懐かしゅうございます。私は、漆間様のお屋敷で包丁人を務めておりました源兵衛の妻でございます」
 老女は膝をついて半助の縄を解くと、傍らに放ってあった小袖を手にして着せかける。
「このようなおいたわしいお姿を拝見することになろうとは、世が世なら漆間様の世継ぎとしてさぞご立派な様でおられたものを…」
 小袖を半助の肩にかけると、老女は懐から開始を出してぐすりと鼻をかんだ。
 -ああ、思い出した…お前は源兵衛の妻の…。
「よし…ですね」
 思わず名前が口をついていた。はっと顔を上げた老女があわてて懐紙をしまう。その眼がみるみる潤んだ。声を震わせながら口を開く。
「はい…よしでございます。よく憶えておいでで…」
「憶えている…その鼻のかみ方は、昔とちっとも変っていない…」
「そんな、あまりでございます。もう少しいい思い出し方をしていただきたかったものです…」
 そういいながらも、袖で眼を覆う。
「…生きていてくださったのですね」
 立ち上がって帯を締めた半助は、よしに向かい合って座った。
「はい…このように老いさばらえてしまいましたが」
 まだ袖で涙を拭っているよしに、うつむいた半助が口ごもりながら訊く。
「その、なぜ、私の縄を…」
「そうでございました」
 袖から顔を上げると、懐から出した竹の皮の包みを手にする。
「このようなものしかお出しできませんが、お食事でございます」
「だが、あの娘は…」
 自分と対峙していた娘の貌を思い出しながら、訊かずにはいられない。 
「兎をお忘れでございますか」
 おかしそうによしは口元を覆う。
「あれは私の娘でございます。ほんに小さいころからお転婆で、そこらを跳ね回ってばかりおりましたから、お屋敷の皆様から兎とあだ名されておりました…年頃になって少しは落ち着くかと思っておりましたに、いつのまにやら福原一揆の頭領になどなっておりまして…それでも、そのおかげで私どもは命を落とさずに済んだのでございます」
「兎…あの兎か」
 たしか自分より4,5歳下の、眼のくりくりした勝気そうな表情の少女の姿を思い出す。身分違いということで、一緒に遊んだことはなかったが。
「源兵衛も…その…」
 この場にいないということはどういうことか想像はついたが、訊かずにはいられなかった。
「黒松の方々は、鬼でございます」
 よしは顔をそむける。残酷な記憶に表情がゆがむのを見られたくないのだろう。今の問いはなかったことに…と言いかけたところに、よしは再び声を絞り出した。
「…一介の包丁人が、何を知っているというのでしょうか。それなのに、あの方々は夫を散々に責め、挙句に年端もいかない子供だった兎の眼の前で…」
 後頭部を殴られたような衝撃をおぼえた。
 -あのほんのちいさな娘の眼の前で…。
 台所の近くを通りかかった時、源兵衛の身体に隠れてちらとこちらを垣間見ていた少女の貌が思い出された。
 -それも、私のせいで…。
 つい先ほどまで自分を冷たい眼で見下ろしていた娘の視線の意味が、ようやく分かった気がする。
 -ここにいる者たちは、みな私のせいで辛酸をなめ、ここにいるのだ…。
「さ、これをお持ちください」
 よしが、手にしていた竹の皮の包みを押し付ける。
「持って行けとは…?」
「お迎えの方々が見えているようでございます。きっと、勢至丸さまをどこか安全な場所にお連れするのでしょう」
「迎え!?」
 ようやく外の人の気配に気づいた半助は、武器もないままとっさに片膝立ちに身構える。 
「土井殿…我らは下島閑蔵の手の者です。どうか、我らとともに来ていただきたい」
 覆面をしているらしい。くぐもった声が聞こえる。
「断る」
「いけません」
 よしが話に割り込んできた。厳しい顔で首を横に振る。
「だが、私は人質なのではなかったのか」
 もはや黒松に売られようが、他の勢力に売られようが構わなかった。そしてその先でどのような目に遭おうとも、よしや兎たちの経てきた苦難に比べれば、物の数でもなかった。
「兎は申しておりました。京方では黒松さまを攻めるための連合ができつつあると。その動きを察した黒松さまは、すでに本願寺さまと手打ちをされて、海上封鎖も解かれたそうです。私どもの引き渡しも取り下げたということですから、私どもはもうしばらくはここに居ることもできましょう」
「だが…」
「勢至丸さま」
 おだやかに、だが決然とよしは半助に向き直る。
「もし勢至丸さまがご自身を罰するために黒松さまに身をお引き渡しになるというおつもりでしたら、それは間違いでございます」
「…というと…?」
「もしご自身を罰せられるおつもりなら、生きて生きて、生き抜いて、そしてご自身がこれまで生きてこられた意味をお考えください。これからどのようにして生きていくべきかをお考えください。きっとそれが、勢至丸さまのために命を落とした者たちが望んでいることでありましょう」
「…考える…?」
「そうでございます。勢至丸さまは、勢至菩薩の生まれ変わりといわれたほどの聡明なお方。きっとお答えを見つけられることと思います」 
 -そのようなことが、あり得るのだろうか…迷い惑ってばかりだったこの私に…。
「…わかりました」
 手をついて深々と頭を垂れてから、半助は立ち上がる。
「黒松の手の者も、どうやらこの場所を嗅ぎ付けたようです。見つかる前に、この場を離れましょう」
 建物の外には、2人の男が控えていた。覆面の上に笠を目深にかぶっているので、その表情はうかがえない。
「そのことは、福原一揆の者たちには…」
「頭領という娘にはお伝えしました」
「そうか」
 それならば大丈夫だろう、と半助は考える。兎ならば、黒松の放った忍にやすやすと捕まるようなへまはしないだろう。
「私をどこへ連れて行こうというのだ…堺か」
「いえ、違います」
 ふと気づいて自分の行先を訊くが、男たちは誰かが傍らで聞き耳でも立てているかのように声を潜める。すでに陽は落ち、残照が雲に映えている。狭い路地の薄暗い軒下を、影のように3人の男が動いていく。

 

 

 棺桶を積んだ荷車が、のろのろと街道筋を進む。頬かむりに覆面をした男が2人、荷車を引き、そして押している。
「待て」
 ふいにその前に立ちはだかる人影があった。街道に張っていた弾正の部下の忍たちである。
「なんだその棺桶は。こんなところを通ってどこに葬りにいくというのだ」
「怪しい。蓋を開けろ」
 ひっと声を上げて後ずさった男たちが、荷車から離れたことに、忍たちが不審げに眉を寄せる。通常であれば、身内の死体であれ、あるいは死体を装って何らかの財産を隠している場合であれ、棺桶を守ろうとするのが普通である。
「何をしている。早く開けろ」
 刀の柄に手をやりながら、忍の一人が苛立った声を上げる。
「あ、開けなさるのは勝手だが、お、おいらは御免だ」
 男の一人が口ごもりながら後ずさる。
「どういうことだ」
「こ、この中には…痘瘡(天然痘)で死んだホトケがいる。お前さん方、痘瘡になりたいなら、か、勝手に開けるがいいさ…」
 もう一人の男はすでに腰を抜かしている。腰を抜かしたままずるずると身を引きずって荷車から離れようとする。
「痘瘡だと…そのような嘘が通じると思っているのか」
 自分たちがこうして街道筋を事実上封鎖しているのは、石山で流行り病が出たための予防措置ということにしているが、それはあくまで建前である。本当に石山で流行り病、それも痘瘡の患者が出ているとは聞いていない…動揺を苦労して隠しながら、弾正の部下の一人が凄んで見せる。
「だ、旦那方、本当に知らないんですかい? …この間着いた琉球船から痘瘡の死人が出てからというもの、石山の町は痘瘡でバタバタ人が倒れてるんですぜ?」
 最初に答えた男は、すでに逃げ腰である。
「そ、そのようなことは…知らぬ」
「お前さん方は知らねえのだろうが、あれ以来、街道筋もぱったり人通りが絶えちまっている…それもこれも、痘瘡のせいだ」
 -そんなことがあったのか…?
 忍たちは思わず顔を見合わせる。たしかに石山に通じる街道は、自分たちが事実上封鎖してからというもの、眼に見えて通行量が減っていた。それは当然のことであって、石山への人やモノの出入りに対して陸上からも圧力をかけるための措置なのだ。
「…ということは、これからまだ死人が増えるということか…その、痘瘡の…」
「とっくに石山は死人だらけだよ。今まではそこらに埋めていたが、いよいよ墓が足りなくなって外に出たってことさ。お前さん方も何の用でこんなところにいるのか知らんが、とっとと逃げ出したほうが得策だよ…じきに、このあたりの村じゃ、石山から来たと言うだけで石投げられて追い立てられるようになる」
 早口でまくしたてながら、腰を抜かしていた男がようよう立ち上がると、走り去ろうとする。
「ま、待て待て! こんなところに棺桶を置いてどこへ行くというのだ! さっさと持って行かぬか!」
「そ、そうだ! こんなところに置いて行かれては邪魔だ! とっとと行くのだ!」
「…ちっ」
「うまいことこんな運搬からおさらばできると思ったのによ」
 小声で毒づきながら、男たちが不承不承戻ってくる。
「何をしている! さっさと行かぬか!」
 忍の一人が腕で追っ払う仕草をしながら声を張り上げる。
「じゃ、行くぞ」
「よっ」
 のろのろと荷車の前後に張り付いた男たちは、覇気のない掛け声をあげると、だらだらとした足取りで荷車を引き始める。
「…ったく、痘瘡など、そんな厄介な病が流行っているとは」
「しかし、そんな恐ろしい病が流行っていて、いままで何の情報も入ってこないのは、怪しいのでは…」
 忍の一人が仔細らしく首をかしげるが、年かさの忍が首を横に振る。
「いや、おそらく痘瘡が流行っているというのは事実だろう」
「なぜ、そう思われるのですか」
「さっきの連中が言っていたが、通常、そのような恐ろしい流行り病が発生すると、発生地からの旅行者は途中一切の宿や茶屋で立ち寄りを拒否される。店もモノを売らなくなるし、そもそも町や村への立ち入りを拒むこともある。だから、そのような流行り病が発生した地では、まず間違いなく情報の遮断に動く。外との出入りを徹底的に制限するのだ。そんなことがうまくいくはずがないのだが、古今東西同じことは繰り返されている」
「そんなものですか…」
 若い忍たちがため息をつく。
「では、なぜあの死体だけは外へ出されたのですか」
 先の忍がなおも訊く。
「いよいよ死体の埋葬場所がなくなったということだろう。そもそも流行り病となれば、死人が多すぎて火葬も追いつかないから、場所を取る土葬しかなくなる。あの死体も、故郷の菩提寺に葬るとかいう口実で外に捨てに出したものだろう。いよいよ病人と死人の増加が抑えきれなくなった証拠だ」
「なるほど」
 疑問を抱いていた忍も今は納得したようである。
「それより、弾正様に大至急報告だ。石山で本当に痘瘡が大流行しているとな」
「はっ」

 


「これは…?」
 荷車で運び込まれた棺桶に、山田伝蔵が眼を丸くする。
「大川平次渦正殿へのお届け物です」
 頬かむりを取った男が、かしこまって答える。
「そうですか。それなら、直接学園長先生の庵の前まで運ばれるといい」
「は」
 短く答えた男たちが、庵に向かって荷車を引いていく。その後ろ姿を見送りながら、伝蔵は小さくため息をつく。
 -下島一門が学園長に、それも棺桶に入れて運んでくるということは、これはよほど厄介な人物を学園で保護することになるんだろうな…。
 伝蔵は知らない。それが、かつて会ったことのある人物であることも、そしてこれから同僚となる人物であることも。

 


 どれだけの時間、揺られているのだろうか。
「何をしている! さっさと行かぬか!」
 怒気をはらんだ声がすぐ傍らで聞こえて、またのろのろと荷車は動き出したのだった。
 -そうか。私は痘瘡で死んだ死人なのだ…。
 棺桶の中にうずくまって、膝を抱えて、半助は息をしていない自分を観想していた。一点に思考を集中させることにより、意識は研ぎ澄まされ、身体は望むように動かせるようになる。修業時代に鍛えた集中力をもって、今の自分の身体は一切の機能を失った一個の物体となっていた。そうしている間は、決して気配を取られない自信があった。
 -私は、死人なのだ…。
 なるほど、それは今の自分に最もふさわしいものかも知れなかった。ここ数日のうちにあまりに多くのことを見聞きし、知りすぎた。自分が通りすぎた後では、自分にかかわったあまりにも多くの者が死を、あるいは流転を余儀なくされていた。それはすべて、ここまで生き延びてしまった自分のふりまく業のように思えた。そして今、棺桶の中で気配を消している自分は、自分に起因して起こった多くの事実に打ちひしがれ、精神的にはすでに死亡した生ける屍にひとしかった。
 -それでいい…。
 自分の生は、あまりに多くの者の運命の犠牲を伴っていた。そんな生に価値があるとは思えなかった。
 -よしは、生きて生きた意味を考えよと言った。だが、結局のところ、私が生き延びた結果、多くの者に苦しみをもたらした。そのことにどんな意味を見いだせるというのだ…。
 もはやこの棺桶の蓋が二度と開かなくてもいいとさえ思った。この中で緩慢な死が訪れる瞬間まで暗闇と餓渇と死への恐怖に苛まれようとも、自分のせいで失われ、狂わされた運命たちの味わった辛酸に比べれば、どれほどのものだろうか。
 そう考えている間にも、荷車は田舎道を単調に進む。やがて止まった荷車の傍らでごそごそと低い声での会話が交わされる。いつもの半助なら全神経を集中させてその内容を聞き取ろうとするところだが、もはやその気力も失われていた。もはや気配を消すことすら忘れてぐったりと棺桶の壁に寄りかかったまま、これから先に何が待ち構えていようと、甘んじて受けとめようと考えるのだった。
 再び荷車が止まった。ぎしぎしと音がして棺桶の蓋が開かれようとしていた。やがて外れた蓋の隙間から差し込んできた光のまぶしさに、半助は思わず手をかざした。

 


「山田先生、あの者を知っておったのか」
「…はい」
 学園長の庵には、大川と伝蔵が向かい合っていた。冷静沈着な伝蔵にしては珍しく、その顔には動揺がまだ残っている。額の汗が止まらない。
「どんなゆかりがあったのじゃ」
「実は数年前、家族で野遊山に出たときに、ケガを負ったあの者と会ったのです。あのときは、まだ経験の浅い忍だと思っていたのですが…」
 ため息をつきながら伝蔵が語る。
「そうじゃったか」
 荷車を引いてきた男が差し出した福富屋からの紹介状に眼を通し、棺桶から出てきた半助を引見した大川は、とりあえず三人を食堂で休ませることにして、立ち会った伝蔵と善後策を話し合うことにした。
「堺の福富屋さんからの文によれば、いまは下島一門のもとで、優秀な忍として活躍しているとある」
「そうでしょうな。かなりの実力は持っているようです」
 隙のない立ち居振る舞いからも、発達した筋肉に覆われた体躯からも、半助が忍としてかなりの実力を持っていることは、大川も伝蔵も即座に認めていた。しかし。
「…あの者は、もはや忍としてはやっていけぬかも知れぬの」
「はい」
 2人は同時に、半助の表情を喪った空疎な面持ちと、焦点を喪った空洞のような眼を思い出していた。
 -何があったか知らぬが、あれはよほどの精神的なダメージを受けた者の顔だ…。
 心の中に鬼が棲むといわれる忍があのような状態になり果てることがありうるのだろうか、と自問しているあいだにも、大川は語り続ける。
「福富屋さんからは、事情があって少しの間、半助を学園で預かってほしいとあった」
「あの者と福富屋さんには、どのような関係があるのでしょうか」
「分からん。実のところ、文を読んでも、あの者のことを福富屋さんがどこまで知っているのかよく分からぬのじゃ。もしかしたら、福富屋さんもよく分かっていないのかもしれぬ」
「そのような人物を学園で預かることは…」
 伝蔵の表情に当惑の色がありありと現れる。無理もなかった。このような異常な状態で連れ込まれた素性も知れぬ男の背後に何もないわけがなかった。当然、追っ手がいるのだろうし、追っている人物が学園にいることが知られたときには、襲撃の対象は学園に向けられるだろう。しかし、学園には年端もいかない忍たまたちが多数いるのだ。そのような危険にさらすわけにはいかない。
「まあよい。あの福富屋さんが紹介状まで書くというのだから、よほどの事情があるのだろう。そうで

あれば、学園で預かるのもやむを得ない」
「よ、よろしいんですか学園長…」
 思わぬ大川の台詞に、伝蔵の声が上ずる。
「まんざら知らない関係でもなさそうじゃからな、山田先生、あの者は山田先生の部屋で預かっていただくとしよう」
「そ、そんなことを突然いわれましても…」
 大川の突然の思い付きは珍しいことではなかったが、明らかすぎるほど厄介な客人をよりによって自分の部屋で預かることになりそうな流れに、伝蔵も抵抗を試みる。
「いいや、決めたのじゃ! あの者は山田先生が責任を持って預かるのじゃ!」
「責任を持ってと言われましても…」
 勝手に責任まで負わされている。それはかなわぬとばかりに、伝蔵は両掌を大きく振りながら抗う。
「ぐ~」
 だが、大川はくるりと背を向けて横になって鼾をかいている。
「そんな狸寝入りをされても…まだあの者の処遇をどうするか決まっていません」
 伝蔵が起こそうと身体を揺するが、大川は鼾をかいたままである。
「まったく…」
 ため息をついた伝蔵はゆるゆると立ち上がる。
 -いつもながら、まったくもって勝手なお方だ。だが…。
 庵の縁側に立つと、半助たちがいる食堂の方を向く。その表情には、すでに諦めと小さな期待が浮かんでいる。
 -優秀な忍であることには間違いない。以前会った時からどれだけ実力が上がったか、いい機会だから見定めてやるのもいいかもしれない…。
 ふっと肩の力を抜いて小さく微笑むと、伝蔵は新たな同居人を部屋に迎えるべく食堂へと向かった。

 


 半助が学園の教師として迎え入れらたのは、その数日後の大川の思い付きを経てからのことだった。

 

 

                    <FIN>