重大なできごと

もし、一年は組の頭脳である庄左ヱ門がは組からいなくなるようなことがあったら…もしかしたら、庄左ヱ門ではなくは組の誰か一人でも欠けてしまったら、もはやは組ではなくなってしまうのかもしれません。そんなことは、庄左ヱ門と同室の伊助にとっても、そして庄左ヱ門にとっても、耐えられないことなんだと思うのです。

 

タイトルはシューマン「子供の情景」より第6曲"Wichtige Begebenheit"

 

 

「ふふふん、ふん、ふ~んっと♪」
 鼻歌を歌いながら、伊助は教室掃除の終了を報告するために教師長屋に向かっていた。
 -報告が終わったら、みんなのサッカーに入れてもらおっと。
 キレイ好きの伊助が手がけた掃除なら、教師たちも出来を確認することはまずない。これが乱太郎たち三人組の当番の後では、そうはいかなかったが。
「一年は組伊助、入ります」
 言いかけたところに、不意に中からの会話が耳に入った。
「…しかし、は組からい組に一人出さなくてはいけないとは…」
 山田伝蔵と土井半助の部屋から聞こえる声に、思わず身を固くする。
 -え…どういうこと?
 そっと中の会話に聞き耳を立てる。
「しかし、一人出すといっても、は組にはは組のチームワークがありますし、一人欠けてもまずいのではないかと思うのですが…」
 当惑したような声を上げるのは、半助である。
 -は組からい組に…一人…出す?
「もちろん、私もそう思う。だが、安藤先生もよくよく迷われた上でのお話だろう。でなければは組から一人ほしいなどとは仰らないはずだ」
 伝蔵の口調にも、困惑が現れている。
「そりゃまあ、そうでしょうが…」
 -たいへんだ! は組から誰か一人い組にクラス替えになることになって、誰を出すかで山田先生と土井先生が相談しているんだ…!
 伊助の背に、冷たい汗が伝う。

「しかし、一人出すとして、誰にします? 誰を出すにしても、影響は大きいと思いますが…」
「そのことだが…実は、安藤先生からは指名があった」
「だれですか?」
「庄左ヱ門だ」
 -庄左ヱ門が、い組に行っちゃうってこと!?
 こんどこそ伊助は、息が止まるかと思うほど驚いた。
 -たいへんだ! みんなに言わなくちゃ!

 


「みんな、聞いて! 聞いて!」
 息せき切って教室に駆け込んできた伊助を、乱太郎、きり丸、しんべヱが戸惑ったように見つめる。
「どしたの、伊助。そんなにあわてて」
「先生がチェックに来るのか?」
 のんびりと訊き返す乱太郎たちに、腕を振り回しながら伊助が叫ぶ。
「それどころの話じゃないよ…庄左ヱ門は?」
「外でサッカーやってるよ。みんなと」
「どうしよう…えらいこっちゃ」
「伊助、さっきからあわててるけど、どうしたの?」
「聞いたんだ…山田先生と土井先生が、庄左ヱ門をい組にクラス替えさせるって」
「なんだってえ?」
 乱太郎たちも、思わず腰を抜かす。
「よりによって、は組の頭脳、庄左ヱ門をい組にクラス替えだとぉ?」
「そんなことになったら、ぼくたち、どうなっちゃうの?」
「う~ん、見当もつかない…」
「とにかく、はやく庄左ヱ門に言わなくちゃ」
 伊助が校庭へと走り出す。
「私たちも行こう」
 乱太郎たちも続く。
「おう」
「あ…待ってよう」

 

 
「ぼくが…い組に?」
 もっとも衝撃を受けたのは、庄左ヱ門のようである。
「庄左ヱ門、聞いてないの?」
「うん…ぜんぜん」
「どういうことなんだよ、庄左ヱ門がい組に行くなんてさ」
 団蔵が顔を紅潮させる。
「ぜんぜんわかんない…でも、たしかに山田先生と土井先生が話しているのを、聞いちゃったんだ」
 伊助が説明する。
「それで、どうするのさ」
「どうするって?」
 兵太夫の声に、みながきょとんとする。
「だからさ、このまま庄左ヱ門をい組に行かせてもいいのかってこと」
「でも、ぼくたちにどうにかできることなの?」
「こういうことって、先生が決められるんだろ? ぼくたち忍たまがいやだって言って、やめてもらえるものなのかな」
 三治郎と金吾が首を傾げるが、兵太夫はなおも言う。
「そんなの、言ってみなけりゃ分からないだろ。このままほっといたら、庄左ヱ門がい組に行っちゃうんだよ」
「そりゃそうだけど…」
「庄左ヱ門は、どう思うの?」
 腕組みをして考え込んだままの庄左ヱ門に、乱太郎が訊く。
「うーん…ぜんぜん分からない。どうしたらいいのか」
「まずいよ。は組の頭脳の庄左ヱ門が分からないって言うなんて…」
 しんべヱが呟く。
「とにかく先生のところに行ってみようぜ。どういうことなのか教えてもらうんだ」
 団蔵が駆け出そうとする。
「待って」
 声を上げたのは、庄左ヱ門である。
「どうしたのさ、庄左ヱ門」
「ちょっと、ぼくに時間をくれないかな。先生たちには、なにかお考えがあるのかもしれない。ぼくなりに、それを考えてからのほうがいいと思うんだ」
 考え深そうに語る庄左ヱ門に、団蔵たちの気勢もそがれる。
「庄左ヱ門がそう言うなら…」
「みんな、心配してくれてありがとう。ぼくはだいじょうぶだから」
 何事もなかったように言うと、庄左ヱ門は歩き去った。
「庄左ヱ門って、ホントにどんなときでも冷静だね…」
「ときどき、あの冷静さがこわくなるよ」
 残された乱太郎たちが、その背を見送る。

 


 考えがある、というのはウソだった。本当は、一人になりたいだけだった。まだ、心臓が高鳴ったままだった。思いがけないことを聞いたショックで、庄左ヱ門の頭から、あらゆる思考が吸い取られてしまったようだった。
 -ぼくが、い組に行くだって…?
 考えたこともないことだった。これまでは組の学級委員長としては組の先頭に立ってきた自分の考えていたことは、打倒い組ということだけだった。それが、急にそのい組のメンバーになれということは、庄左ヱ門にとっては、理不尽としかいいようがなかった。
 -なんで、そんなことになるんだろう…。
 考えても考えても、納得がいかないことだらけだった。
 考えがまとまらないままに歩き続けて、気がつくとは組の教室に立っていた。誰もいないがらんとした教室にひとり立つ。
 -やっぱり、ぼくがいるのはこの教室だ。他の場所ではありえない。
 それなのに、自分は、クラス替えされようとしている。
 -どうすればいいの、ぼくは…。
 頭を抱えて、しゃがみこむ。

 

 

 どれくらい経ったのだろうか。気がつくと、外は薄暗くなっていた。
 -しまった。こんな時間になっている。
 もう夕食の時間なのだろう。味噌汁や煮物の匂いが教室まで漂ってきている。だが、食欲が湧かなかった。いま、食堂に行けば、ほぼ確実には組のメンバーと会うだろう。それも厭わしかった。彼らに、何かの答えを求められるのが煩わしかった。けっきょく、答えなど、はじめからなかったのだから。

 


「で、どう思う?」
 庄左ヱ門が去った校庭で、兵太夫が皆の顔を見渡す。
「どう思うって…」
 乱太郎たちにも、答えようがない。
「とりあえず庄左ヱ門が考えがあるって言うんだから、任せるしかないんじゃない?」
 三治郎が当惑顔で言う。
「でも、庄左ヱ門にまかせておいていいのかな」
 兵太夫の言葉に、皆が当惑した表情を浮かべる。
「たしかに、いちばんショックを受けている庄左ヱ門になにか考えてもらうっていうのも、ムリがあるかも…」
 虎若が腕を組む。
「でも、俺たちでなにか考えられるか?」
 頭の後ろで手を組んだきり丸がため息をつく。
「でも、なんとかしないと庄左ヱ門がい組にいっちゃうし…」
 そわそわと動き回りながら喜三太がいう。
 -…。
 皆の話を耳にしながら、伊助は押し黙って背を向けていた。

 

 

「ただいま」
 遅い風呂をつかってきた庄左ヱ門が、部屋に戻ってきた。
「…おかえり」
 -こんな時間まで、どこに行ってたのさ。
 結局、夕食にも姿を見せなかった庄左ヱ門だった。伊助は心配で食事も喉に通らなかった。ほとんどをしんべヱに食べてもらって、なんとかおばちゃんに怒られずに済んだのだ。食堂に現れない庄左ヱ門を探し回ろうとした伊助を止めたのは乱太郎だった。いまは庄左ヱ門を一人にしておいた方がいい、と乱太郎は言った。だから、伊助は一人部屋に戻ることにしたのだ。。
 伊助は宿題に取り組んでいる最中だった。いや、取り組もうとして、まったく手がつけられていなかった。問題を読んでも、読むそばから頭からこぼれ落ちて、自分が何をしているのかもわからなくなって、また問題を読んでは片端からこぼれ落ちて、を繰り返していた。
「宿題やってたんだ。手伝おうか?」
 伊助の傍らにしゃがみこみながら、庄左ヱ門は言う。
「うん…あとで」
「あとで?」
 伊助の返事に、庄左ヱ門が首を傾げる。
「うん。その前に、庄左ヱ門にききたいことがあるんだ」
「なに?」
 質問の内容は分かりきっていた。それでも、平然を装って訊き返す。答えなど、ないことは分かっていたのだが。
「庄左ヱ門、どうするの?」
「どうするって…」
「い組のこと」
 -伊助、けっこう直球でくるんだな…。
 ストレートな伊助の問いに、庄左ヱ門は、どう答えようか言葉を探す。
「伊助は、どう思う?」
 以前、学級委員長委員会で鉢屋三郎から、「答えたくない質問をされたときは、質問で答えるといいよ」と教えられたことを思い出した庄左ヱ門は、さっそく実践にうつす。
「ぼくは…」
 口ごもってうつむいていた伊助が、顔を上げるときっと庄左ヱ門を見据えた。
「ぼくは、庄左ヱ門には、は組に残ってほしい! それしかないじゃないか」
「伊助…」
「庄左ヱ門は、どう思うのさ」
 思いつめた顔の伊助に、庄左ヱ門は腹をくくった。伊助に向かい合って端座する。
 -ここは、ぼくのほんとうの気持ちを言うしかない。 
「…ぼくは、それも仕方がないことだと思うんだ」
 膝の上に拳を置きながら、庄左ヱ門は、静かに言った。
 -…え!?
 思いがけない答えに、あんぐりと口を開けたまま伊助の表情が凍りつく。
「だって、誰かが行かなきゃいけないんだろ? あのい組の連中の中で、伊助はうまくやっていけると思う?」
「…」
 ふたたび伊助はうつむく。そもそも全員が成績優秀ない組の中で、自分がテストのたびに恥ずかしい思いをすることは、目に見えていた。そして安藤に言われるのだ。い組に来たからには、い組らしい成績を取ってもらわないとね、と。それが無理なことを承知で。
 そんなことに耐えられるとは、とても思えなかった。
 -たしかに、庄左ヱ門なら、何とかなるかもしれない…。
 庄左ヱ門なら、い組の連中に引けをとらない成績を修めることができるだろう。それに、弁が立つから、安藤やい組の連中から何か言われても、言われっぱなしということもありえない。
 -でも、だからって…。庄左ヱ門は、は組のリーダーなんだし…。
「それに、は組にとっては、ぼくがいなくてもやっていけるようになるための、いいチャンスだと思うんだ…」
 庄左ヱ門は静かに語る。
「ねえ、庄左ヱ門」
 伊助はもう、庄左ヱ門の落ち着き払った言葉に耐えられなかった。
「…本気で、そう思っているの? は組からいなくなったほうがいいなんて、その方がは組のためになるなんて、おかしいよ。は組から庄左ヱ門がいなくなったらどうなるか、本気で考えたこと、ある?」
「伊助…」

 


「庄左ヱ門は…ぜんぜん分かってないよ」
 膝の上で拳を握り締めながら、伊助は言い募る。
「分かってない?」
「ぜんぜん分かってない。ぼくたちは組は、11人いて初めては組なんだ。庄左ヱ門だろうが、ほかの誰かだろうが、一人でもいなくなったら、もうは組じゃなくなっちゃうんだ。学級委員長なのに、そんなことも分からないの?」
 伊助は、涙が出そうになるのを必死で堪えながらいう。
「庄左ヱ門がそんなに物分りよくは組から出て行くというなら、ぼくだっては組を出て行く」
「出て行くって?」
「学園をやめる」
 言ってしまっても、不思議となんの動揺も感じなかった。誰か一人でも欠けたは組には、特に庄左ヱ門が欠けたは組には、なんの未練もなかった。は組がばらばらになっていくのを見るくらいなら、学園など辞めてしまったほうがまだましだった。
「お、落ち着けよ、伊助」
 庄左ヱ門は、あわてて伊助の両肩をつかむ。
 ふだんは大人しいが、いざとなると急に大胆な言動を見せる伊助だった。実はそうなったときの伊助は手に負えない。だから、伊助の大胆スイッチの発動は、全力で阻止しなければならなかった。
「なんで庄左ヱ門は、そんなに落ち着いていられるのさ。これは、庄左ヱ門の話でもあるのに」
「分かってる。分かってるから…」
「どう分かってるっていうのさ」

 


「ぼくだって…」
 不意に庄左ヱ門の口調から自信と力強さが消えた。肩を落として口ごもる。
「ぼくだって、い組なんかには、行きたくない」
 -いままでさんざんライバルだって言ってきた相手のところに、あっさり入っていくなんて、これからは、は組がライバルということなんて、ぼくにはできない…。
「ぼくだって、は組のみんなが大好きだし、それが明日からライバルですなんてぼくには言えない。だから…」
 -伊助の言葉で、ぼくも、心が決まったよ。
「ぼくも、覚悟を決めた」
 庄左ヱ門が顔を上げる。 
「覚悟って…?」
「どうしてもい組に行けというなら、ぼくも、学園を、やめる」

 


「授業の前に、お前たちに話がある」
 翌朝、半助とともに教室に現れた伝蔵が話し始めたところに、庄左ヱ門が立ち上がった。
「先生! ぼくたちからも、お話ししたいことがあります!」
 -ついに、この話をするときが来たのか…。
 は組の全員が固唾を呑んで庄左ヱ門を見つめる。
「なんだ、庄左ヱ門。言ってみなさい」
 いつもなら教師の話の腰を折るなどありえない学級委員長のただならぬ気配に軽くたじろぎながら、伝蔵が促した。
「クラス替えの件です。こういうことは先生方が決められることなのでしょうけど、ぼくたちに何の話もしていただけないのはひどいと思います」
 庄左ヱ門は、わずかに震えてはいるが、落ち着いた口調で話し始めた。
 -こんなときでも落ち着いて話せるなんて、庄左ヱ門の冷静さって怖い…。
 -でも、この冷静な庄左ヱ門がいなくなるかもしれないんだよ?
 乱太郎たちが視線を交わす。
「ちょ、ちょっと待て…」
 当惑声で伝蔵が制しようとするが、いちど口を開いてしまった庄左ヱ門は、自分でも止めることができなくなっていた。徐々に声のトーンが上がる。
「ぼくたちは組は、11人そろってこそのは組なんです。だれか一人抜けても、は組はは組ではなくなってしまいます。…ですが、クラス替えでは、ぼくがい組に行くらしいですね…せめて、ぼくにもひとこと教えてくださってもよかったのではないでしょうか。それに…」
 庄左ヱ門のなかで、不意に感情が高まった。
「ぼくは…ぼくは、は組を離れたくありません! どうしてもい組に行けというなら…」
 庄左ヱ門はぎりと奥歯を噛み締めた。
「…ぼくは、忍術学園をやめます!」
 それきり庄左ヱ門は、歯を食いしばったまま、涙を拳でぐいと拭っている。
「庄ちゃん!」
「なに言ってんだよ庄左ヱ門!」
 そこまで思いつめているとは知らなかった伊助以外の生徒たちが声を上げる。
「先生、そんなのやめてください! 庄左ヱ門がいなくなったら、は組はばらばらになっちゃいます!」
「そうです! 庄左ヱ門がいるから、は組はは組でいられるんです!」
 乱太郎たちが両腕を広げたり振り回したりしながら主張する。
「お願いですから先生、は組から誰か一人出すなんてことはやめてください! ぼくたち、一生懸命勉強しますから! な? な?」
 立ち上がった団蔵の声に、皆が力強く頷く。
「ぼく、ナメクジさんたちと遊ぶ時間を減らしますから!」
「俺も、バイト少し削って勉強します!」
 喜三太ときり丸も立ち上がる。
「待て待て。どういうことだ? なぜ庄左ヱ門が学園をやめる必要があるんだ。クラス替えとかは組がばらばらになるとか、なにを訳の分からないことを言っている?」
「だって、土井先生!」
 伊助が進み出る。
「ぼく、この前聞いてしまったんです。は組からい組に一人出さなければならない、安藤先生が、庄左ヱ門がいいって言ったって…それって、い組とは組でクラス替えをやるってことですよね! 先生たちが話していらっしゃったじゃないですか!」
 -ああ、あれを聞いてしまったのか…。
 ようやく合点が行って、伝蔵と半助は顔を見合わせる。
「どうしますか、山田先生?」
 半助が訊く。
「あのなあ…お前たち、落ち着いて聞け。たしかにそのような話を私たちはしていた。だが、それは、クラス替えの話ではない」
「「「へ?」」」
 は組全員がぽかんとする。伝蔵が説明する。
「来週、一年生全員でキャンプに行くだろう。そのとき、クラス対抗で出し物をやるが、佐吉と彦四郎はケガでキャンプに参加できないから、い組は人が足りない。だから、キャンプファイヤーの出し物のときだけは組から一人借りられないかと、安藤先生からご相談があった」
「庄左ヱ門を借りたいというお話があったのは事実だ。出し物くらい、庄左ヱ門に頼らず自分たちで企画するのも訓練になると思ったから、安藤先生には了解したとお返事もしてある。そういうことだ」
 半助が続ける。
「な~んだ、そういうことだったんですかぁ」
 へろへろと乱太郎たちが座り込む。
「いまのは組から庄左ヱ門が抜けたらどうなるかくらい、私たちが一番よく分かっている。そんなこと、私たちが認めるわけがなかろう…だが、土井先生、いいことを聞きましたな」
 伝蔵がにやりとする。
「そうですね…やっとは組も、やる気を出してくれたようです」
 半助もにやりとしては組を見やる。
「ど、どういうことですか?」
 戸惑ったような眼で、団蔵が伝蔵たちを見上げる。
「聞かせてもらったからな…お前たちが、しっかり勉強すると言ったのを」
「そうだ。喜三太はナメクジと遊ぶ時間を減らして勉強すると言ったな。きり丸は、バイトを削って勉強するとも聞いたぞ…いやあ、感心感心」
「え…い、いやだなぁ、先生。俺、そんなこと言いましたっけぇ?」
 きり丸が、頭を掻きながら繕うような照れ笑いで誤魔化そうとする。
「まさか、忍たまともあろうものが、一度口にした約束を破るなどということは、ないだろうな」
 腰に手を当てた伝蔵と半助が、身を乗り出す。
「え、ええ…いや、まあ…」
「その…、はい…、頑張ることは、がんばろうかと」
 身を引きながら、乱太郎たちが顔を見合わせる。
「はっはっはっ…いやあ、楽しみ楽しみ」
「お前たち、期待してるぞ…はっはっはっ」
 伝蔵と半助が、高らかに笑いながら、教室を後にする。
「「「とほほ~い」」」
 残されたは組一同が、肩を落とす。

 

<FIN>