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<リクエストシリーズ 土井先生&六年生>


このリクエストをいただいたのはなんと半年前。

本っっっ当に遅筆もいいところですよね。

しらゆりさん、申し訳ありませんでした!! <(..)>


で、15歳の六年生と25歳の土井先生。10歳の差は忍としての実力としては途方もなく大きいのでしょうが、それでもベテランの教師たちとは違う親しみを感じているのではないでしょうか。


1  




「…というわけで、カキシメジ城が戦の準備をしているという情報がある。ついては、その詳細を探るのが今回の演習の任務とする」
 六年生たち1人ひとりの顔を見渡しながら半助が語る。どの顔も緊張感に引き締まっている。
「演習には私が同行する。情勢が急変した時には演習の中止か続行かを判断するから私の指示に従うように。それではこれから作戦タイムとする。明日の昼までに演習計画書を提出すること。いいな」
「「はい」」
 狭い教師長屋の部屋に集う青年たちの熱気に圧倒されるような眩しさを感じながら、半助は説明を進める。
「演習の開始は明日の夜だ。作戦期間は報告期限を含めて5日とする。それまでに調べた内容を報告書にまとめて私に提出すること。何か質問は?」
「先生」
 仙蔵が声を上げる。
「どうした」
「今回、演習に同行するのは土井先生だけですか?」
 仙蔵の問いに皆が頷く。六年生の演習は危険なものが多い。安全を確保し、各人の動きを評価するためにも複数の教師が同行するのが通例だった。
「そうなんだけどな」
 作戦を説明していたときの引き締まった表情から一転して当惑したように視線を泳がせる半助だった。「木下先生と日向先生が同行する予定だったのだが、木下先生は急に出張が入ってしまって、日向先生は一年ろ組の補習をやらなければならなくなった。他の先生方も手が離せないので、私だけが同行することになった」
 まだ教師経験の浅い自分が、上級生の演習を一人で統率するのは確かにプレッシャーだった。伝蔵からいろいろアドバイスを受けてはいたが、不安が解消できたわけではなかった。だが、生徒たちの前でそんな態度を見せるわけにはいかない。一歩間違えば命にかかわるような危険な演習なのだ。生徒たちの緊張と不安は自分の比ではない。だからすぐに笑顔を見せて続ける。「だが、通常とは少し体制を変えるが、きっちりお前たちの動きは評価するから心配するな」



「どうだった」
「戦の準備をしているのは確かなようだ。城内での武器や食料の備蓄は通常よりかなり多くなっているらしい」
「関所でのチェックも厳しくなっている。臨時の検問所もできていて、かなり領外との人の流れに神経質になっている」
 演習初日の夜だった。城内や城下に散った六年生たちは、それぞれ情報を携えて拠点とした町外れの廃寺に戻ってきた。
「具体的な相手は掴めたか」
 仙蔵が訊く。特に選ばれるまでもなく演習のリーダーを務めていた。
「十中八九、オシロイシメジだな」
 腕を組んだ文次郎が断言する。傍らの長次と伊作が大きく頷く。
「根拠は?」
 仙蔵が訊く。
(オシロイシメジ領との境界に近い砦に兵力を集めている。それが第一。)
 むすりと長次が説明する。
「城内も同じだ」
 文次郎が口を開く。「数日内に侍大将がオシロイシメジ戦の動員令をかけるという噂でもちきりだ」
「それに、城下の商人にオシロイシメジとの取引をしないよう圧力をかけている。もっとも、僕が話を聞いた薬種問屋では、オシロイシメジ領以外にもサンコタケ領やクサウラベニタケ領からの薬草の入荷も完全に止まっていると言っていたけどね」
 薬売りの装束のままの伊作が続ける。
「ならそれで間違いないんだろうけどさ」
 あっけらかんとした口調の小平太になにか感じるものがあったらしい。仙蔵が話を向ける。
「なにか気になることがあるのか、小平太」
「いや、フツーならこういうとき、奉行連中は手勢を連れて城に集まるだろう? だが、まだ屋敷に手勢を集めただけで動いてないところがいくつかあった。とっとと参集しないと殿さまの心証が悪くなるんじゃないかと思ってな」
「準備が遅れてるだけじゃねえのか? 城下は物資不足が深刻だからな」
 城下を探っていた留三郎が指摘する。
「それはそうかもな」
 あっさり頷く小平太だった。
「…」
 黙って聞いていた半助だったが、小平太の報告に引っかかるものを感じていた。
 -指導教師として余計なアドバイスをするわけにはいかないが…あるいはあえて手勢を動かしていないという可能性はないのか?
 明日、生徒たちが調査に散っている間に調べてみようと考えた半助だった。



 -なるほどな。これから城に参集するつもりか。
 翌日、小平太が指摘していた奉行の屋敷の一つを探った半助が眼にしたのは、戦の準備を整えた兵たちが続々と城に向けて行進を始める姿だった。
 -だが、おかしい。
 城主の元に威儀を正して出陣するのだからそれなりの態勢なのは分かるが、火縄のにおいを漂わせたままの進軍に違和感をおぼえた。
 -まるで臨戦態勢ではないか。
 そう思ったとき、
「土井先生!」
「こちらにいらしたんですか」
 小平太と伊作が同時に駆けつけてきた。
「どうした、お前たち」
 血相を変えた2人の表情に嫌な予感をおぼえる。
「ここもそうだ…火縄を点火したまま歩いているな」
「あの奉行たち、城を攻撃するつもりかも知れません」
「奉行たち?」
 伊作の台詞に半助が反応する。「動き出した奉行が他にもいるということか?」
「同時に動き出しています。様子がおかしいので報告に…」
 小平太が言いかけたとき、ドドドッと重い響きが轟いた。
「どういうことだ?」
 半助たちが顔を見合わせたとき、「たいへんだ!」と留三郎が駆けつけてきた。
「どうした、留三郎!」
「城に向けて銃撃が始まった! 反逆だ!」
 こわばった声で留三郎が報告する。
「なんだと? クーデターということか?」
 半助が思わず声を上げたとき、銃声を待っていたように奉行の屋敷から出てきた兵たちが一斉に走り出した。
 -まずい!
 クーデターを起こした奉行たちが一斉に動き始めたようだった。
「城に潜っているのは?」
 とっさに考えたのは、城に潜っている生徒の安否である。
「仙蔵、文次郎、長次です!」
 上ずった声で伊作が応えると同時に「長次!」一声叫んだ小平太が駆け出そうとする。
「待て、小平太」
 とっさに小平太の襟をつかんで引き戻す。
「ですがっ! 長次がッ!」
 小平太にいつもの明るさはない。
「城内は危険だ。私が行く。お前たちはここで待つんだ。いいな」
 小平太の常ならぬ表情を見て却って落ち着いた半助が言い聞かせる。事態がこうなった以上、演習中止は当然として、城内に潜った生徒たちの身柄を確保しなければならない。新たな義務感に駆られた半助が動き出そうとしたとき、「待ってください」
 声を上げたのは留三郎だった。
「どうした」
「先生は、私たちにここに残って待ってろとおっしゃるのですか?」
 固い声で留三郎が訊く。
「当然だ。城内は攻撃を受けて混乱しているはずだ。いまは中にいる3人の身の安全を…」
「であれば、僕たちに行かせてください」
 伊作が続ける。
「なぜだ」
「僕たちが六年間、忍術を学んできたのは、まさにこういう場合にどうするかを判断するためではないのですか」
 顔は必死の形相だが、精一杯静かに抑え込んだ声が震えを帯びている。
「そうです。事態が急変した時にどのように対応して任務を果たすか。むしろ先生にはそこんところを評価してもらいたいです」
 留三郎が不敵な笑いを浮かべる。
「…そうか」
 しばし呆然と言葉を探していた半助が、小さく頷いた。「どうやら私はお前たちの実力を過小評価していたようだな…それでは、お前たちに演習の続行を命じる。どんな手段を使っても構わない。城に潜った仙蔵たちを救出するんだ。いいな」
「「はい!」」
「その代わり」
 声を上げた半助がにやりとする。「私も関与させてもらうからな」



「ずいぶんと派手にやってるね」
 伊作が呟く。3人は城にほど近い神社の境内にある高木の枝に腰を下ろして攻城戦の様子を見守っていた。
「で、城に潜った連中だが」
 うっそうと茂った葉の間から様子を眺めようと身を屈めた留三郎が口を開く。「どうしていると思う」
「とりあえず脱出しようとしてるんじゃないのか?」
 小平太が言う。
「そうかも知れないけど」
 疑問を挟んだのは伊作である。「仙蔵たちが僕たちを信じてくれているとすれば、僕たちが動くのを待っている可能性もあると思うんだ」
「なあ、いまクーデター起こした連中は城攻めしてるところなんだろ?」
 冷静さを取り戻したらしい小平太がいつもの口調で言う。その間にも銃声は間断なく響いている。
「ああ、そういうことだな」
 だからどうした、と言わんばかりに留三郎の口調が尖る。
「てことはさ、私たちも城攻めの兵に紛れて城内に突入すればいいんじゃないか? 先生との連絡用に伊作には残ってもらうとしてさ」
「あのよ…いままさにクーデター起こした連中に対抗して城内で必死の抵抗をしているところなんだぞ? いま迂闊に近づいたら犬死にしかねないだろ」
「なあに、気にすんな」
 からからと笑う小平太だった。「そんな城門の一つや二つ、私がイケイケドンドンで突破してやるさ」
「いやだからさ…」
 あまりに無鉄砲な話に額に手を当てて天を仰いだ留三郎に代わって伊作が言う。「いくら小平太でも、火縄や大筒の弾に当たったら死んでしまうんだよ?」
「だから当たる前に突っ込むのさ」
 平然と小平太が続ける。「クーデター起こした連中の装備のなかにデカい丸太があった。あれで城門を突破するつもりだろう。あれに私が加勢すれば…」
「だから小平太、無茶は…」
「いや待て」
 言いかけた伊作を留三郎が遮る。「あれ見ろよ」
「どれ?」
 伊作も葉の間から様子を眺めようと身を乗り出す。いま、城の搦手(からめて・裏門)に近い物陰に、城門を突破しようと丸太を構えた兵たちがチャンスをうかがっていた。
「搦手側は守備側の死角が多い。銃撃が止んだすきに城門に近づいてしまえば撃たれる可能性は低い」 
「なら、どうして搦手にもっと鉄砲足軽を置かないんだろう。少しでも突破できる可能性の高い方に兵力を集中させるのが常道だと思うけど」
 伊作が首をひねる。
「あるいは時間稼ぎをしているのかも知れないな」
 ふと思いついた考えを留三郎が口にしたとき、「ここにいたのか」と半助が現れた。
「土井先生!」
「どちらに行ってらしたんですか」
「ああ、ちょっとな…それよりお前たち」
 半助も身を屈めて搦手をうかがう軍勢に眼をやる。「攻城側がなぜ戦力を分散させているか考えてみなさい」
「分散させている理由、ですか?」
 留三郎が意外そうに訊く。「つまり、攻城側はチャンスを狙っているだけではない、ということですか?」
「そうじゃないなら、時間を稼いでいるのかもな」
 黙っていた小平太がぼそっと言う。
「時間を稼ぐ? …そうか! クーデターを起こした側が、外の勢力と内通していたというわけだね!」
 伊作が声を上げる。
「まあそう言ったところだろう。それがオシロイシメジかどうかはまだ分からないが…いずれにしても、彼らに加勢する勢力が領外から現れるのを待っている。でなければ、国境を守備している兵力が城を救いに戻ってくるのを妨害する知らせを待っている」
 半助が頷きながら解説する。
「助けが来ないと分かれば、城内の士気が下がる。それも狙いだろうな」
 納得したように留三郎も頷く。「で、どうするかだが」
「なに、簡単なことだ。両方の作戦をぶっ潰せばいい」
 さらりと言い放つ小平太に留三郎たちが眼を見開く。
「ぶっ潰すって…どういうことだい?」
 伊作が戸惑った口調で訊く。
「だからさ、城内の連中は攻め込まれちゃ困るわけだろ? でもって、攻める連中はオシロイシメジかどっかの加勢を待ってるわけだから、いま攻め込むのに成功したらかえって都合が悪いわけだ。外からの加勢がないと、城を制圧できるほどの兵力はないってことなんだろ?」
「なるほど。だから今、俺たちがクーデター起こした連中を手助けして攻め込むのに成功させてしまえば、どっちにとっても番狂わせになる。その分混乱して隙が生じる、ということだな」
「説明臭いセリフご苦労さん」
 確認するように言った言葉をあっさりいなされて留三郎が顔をしかめる。
「というわけで、私は搦手の突破に行くからな!」
 枝から飛び降りようとした小平太を「待て」と半助が制する。
「なんですか?」
 きょとんとした表情で小平太が振り返る。
「留三郎。小平太と一緒に行くんだ。伊作は私と別の方向から援護する」
「え…でも」
 不服そうになにか言いかけた小平太の肩を「そら、行くぞ!」と留三郎が叩いて先に枝から飛び降りる。
「あ、待てよ」
 慌てて飛び降りた小平太が駆け出した留三郎を追って姿を消す。



「先生。留三郎を行かせたのはどうしてですか」
 枝に残された伊作が訊く。
「小平太の様子を、伊作はどう見た?」
 鋭い視線で搦手の様子をうかがいながら半助が言う。
「小平太の様子、ですか?」
 伊作がおうむ返しに繰り返す。「相変わらず…と思いましたが」
「私には、ずいぶん落ち着きを失っているように見えた」
 誰かに聞かれるのを恐れるように半助が声を低める。「おそらく長次のことが心配でたまらないのだろう」
「だから牽制するために留三郎を?」
「そういうことだ」
 半助が言葉を切る。「そうでないと、どんな無鉄砲な行動に出るか分からないからな」
「そういうことですか…ところで」
 気になるように伊作が搦手を窺う。「城内からの砲撃が止まりましたね」
「攻城側の動きが止まったからかもしれないな」
 半助が応える。「城内にそれほど弾や火薬が潤沢にあるとも思えないからな」
「とすると…」 



「砲撃が止んだな」
 留三郎が低く呟く。傍らの小平太はいつにない鋭い視線で城の矢狭間を睨みつけている。2人は攻城側の足軽に扮して搦手を狙う軍勢に紛れ込んでいた。軍勢は矢狭間からは死角になる石垣の陰で、門を突破するための丸太を構えたまま待機状態が続いていた。
 -やるなら今か?
 留三郎の眼は、搦手の門を突破する小隊長の動きに注がれている。いま、小隊長のもとには数人の参謀が訪れていて、なにやら相談している。と、その話の輪が動いた。小隊長が大きく頷き、参謀たちが素早く走り去る。
 -これはやるな。
 留三郎が考えたとき、小平太が「やるなら今だな」と唸るように声を漏らした。
「小平太もそう思うか?」
「城内の連中、こっちが動けないと見たのだろう。大手(表門)のほうに軍勢を向けたようだ。矢狭間からこっちを狙っている火縄の数が減っている」
 低い声で小平太が説明した時、「突撃用意!」と伝令が声をひそめて伝えて回ってきた。丸太を構えた足軽たちの間に緊張が走る。
「あの城門は三、四回突かないと抜けないな。一発目ですぐ反撃が始まるから退くときには用心しろよ」
 傍らで古参の足軽が若い兵に注意している。緊張で顔を青ざめた若い兵が無言で頷く。その会話を聞きながら小平太は腕をぶんぶん振り回し、留三郎は指をぱきぱき鳴らしている。
 ≪当然、イケイケドンドンでやるんだろうな。≫
 ≪あったり前だ! 留三郎も振り落とされた連中に足を取られないようにしろよ。≫
 矢羽音が飛び交う。次の瞬間。
「突撃!」
 小隊長が上げた腕を振り下ろす。
「うおりゃぁぁぁぁっ!!」
「イケイケドンドーーン!!」
 丸太は足軽たちの誰もが予想しなかった勢いで前に突き動かされ、数人が振り切られてごろごろと身体を転がせる。それでも構わず突き進む小平太の勢いにようやく足がついてきた足軽たちが鬨の声を上げて突撃する。「敵だ!」という番兵の動転した声が城門の上から聞こえたような気がしたが、耳元を切る風の音の方が大きかった。次の瞬間、激しい衝動とともに丸太は城門に激突し、そのまま門扉を突き抜けた。一度で門扉を突き抜けると思っていなかった足軽たちの身体が丸太の勢いに連れ去られて門内へと転がり込む。
「あとは頼んだ! 私は長次を探す!」
 言い残した小平太が、予期せぬ襲来にパニック状態の城兵たちの間をすり抜けて素早く姿を消す。
「おい、待てよ!」
 言いかけた留三郎だったが、すでに周囲は続いて刀や槍を構えて突入した後続部隊と城兵たちのあいだで乱戦が展開されていた。
 -しょうがねえな。
 巧みに身をひそませながら、留三郎も城内に向けて足を進める。 



「…一発で門を突破しましたね…」
 唖然とした伊作が呟く。
「まあ、小平太のやることだから驚きはしないけどな。それより」
 半助の手が伊作の肩を軽くたたいた。「われわれも出動するぞ」
「どちらへ、ですか?」
 てっきり城から脱出してくる仙蔵たちの援助にあたるものと思っていた伊作が弾かれたような表情になる。
「オシロイシメジが今回の件にどれだけ絡んでいるか探るのさ」
 半助が片目を瞑る。「さあ、国境に向かうぞ」



 ≪なんだ、あの騒ぎは?≫
 ≪搦手のほうで何かあったようだな。≫
 城内に忍んでいた仙蔵たちのもとにも、門を突破された騒ぎは伝わっていた。そのとき、 
「くそっ、もう門を破ったとは!」
「敵の勢力がもう到着したということか?」
 悪態をつきながら数人の侍が搦手に向かって慌ただしく走り去っていった。その後を兵たちがぞろぞろと続く。
 ≪なるほどな。小平太の言っていたのが当たっていたと見える。≫
 顎に手を当てた仙蔵が考え深げに矢羽音を飛ばす。
 仙蔵たちは本丸のメインの廊下の天井裏に潜んでいた。何かあったときはここに集まるよう申し合わせていた。
 ≪どういうことだよ。≫
 ≪まだ参集していない奉行たちがいたと、小平太が言っていただろう。≫
 苛立たしげに訊いた文次郎だったが、仙蔵の答えに顔をゆがめて黙り込む。
 ≪それで、長次はどうした。≫
 ≪分からん。≫
 顔をしかめたまま文次郎が応える。長次だけが現れていなかった。
 ≪長次は武器庫の調査に行ったんじゃなかったのかよ。≫
 文次郎が苛立ちを収めかねて吐き捨てたとき、「よっ」と声をかけて留三郎が現れた。
 ≪待っていたぞ、留三郎。外はどうなっている。≫
 何しにきやがった、と食って掛かりかける文次郎を押さえつけた仙蔵がさっそく質問を浴びせる。
 ≪奉行連中の何人かが外部の敵と通じていたらしい。一斉に城攻めを始めた。搦手の防御が甘いのを狙った突破作戦があったから、俺と小平太で突破して入ってきたところだ。≫
 ≪で、小平太はどうした。≫
 ≪それがだな。≫
 困ったように留三郎が言葉を切る。
 ≪…長次を探すと言ってな。はぐれちまった。≫ 
 ≪はぐれた、だと?≫
 文次郎が太い眉をぐいと上げる。
 ≪ああ。だが…。≫
 留三郎が辺りを見回す。
 ≪ここには長次もいないようだな。一体どうした。≫
 ≪武器庫の調査に行ったきりだ。≫
 憮然として文次郎が答える。 
 ≪んだと?≫
 留三郎が眼をむく。
 ≪探しに行かなくていいのかよ。≫
 ≪このクーデター騒ぎのせいで武器庫の辺りは人の眼が多すぎる。≫
 平たい声で仙蔵が説明する。
 ≪だから長次も動くに動けずにいるのだろう。我々も同じだ。≫
 ≪状況が変わるまではこのままってことか…。≫
 廊下を慌ただしく行きかう将兵たちの動きを天井板の隙間からにらみながら留三郎が吐き捨てる。



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