おひさま組外伝

 

59巻第三章のおひさま組之図を見て条件反射的に書きたくなってしまいました。共通する要素の少ないメンバーですが、なんかほんわかしてそうで、メンバーの中ではちょっと異色な三木ヱ門もだんだん染まってきそうで、きっとキクラゲ城への道中はこんな感じなんだろうな。

 

 

「くっ…なんで私が…」
 忍たま長屋で外出の準備をしている三木ヱ門の眉間には皺が刻まれている。
「よう、三木ヱ門! 何組になった?」
 一足遅くくじ引きを終えて部屋にやって来た守一郎が訊く。
「おひさま組」
 ぶすっと三木ヱ門が応える。「守一郎は?」
「俺はウナギ組! 土井先生と一年は組の三人組と一緒なんだ」
 上機嫌で風呂敷に弁当や忍器を詰め込みながら守一郎は言う。
「じゃ、守一郎の組もダミーなんだな」
「ダミー?」
 きょとんとした守一郎が訊き返す。「なんだよ、ダミーって」
「今回、密書を届けるのにいくつもチームを作って敵を攪乱するだろ? てことは、密書を持ってないチームをたくさん作るわけだ。で、我々もその一つに過ぎないってことだ」
 不機嫌ながらも生真面目に説明する三木ヱ門だった。まだ学園のことを知らないクラスメートには、何かにつけ教えてやらねばと思っている。
「そうかなあ」
 守一郎はあまり納得していないらしい。
「なんでさ」
「だって、仮にも主人公の乱太郎、きり丸、しんべヱに担任の土井先生までついているチームだよ? フツーなら主人公がそーゆー役目なんじゃないの?」
 一応もっともらしいことを守一郎が訊く。だが、三木ヱ門は首を横に振る。
「いや、必ずしもそうとは限らない。そもそもこういう学園全体を巻き込む騒動が起きる時は、学園長先生が裏で手を引いていることがほとんどだ。自分用のおやつの予算を確保されようとしたり、ガールフレンドとデートをされたり」
「ほへぇ」
 感心したように声を漏らす守一郎だった。「でも、それと俺たちのチームがダミーなのと関係あんのかな」
「考えてもみろ」
 苛立ったように三木ヱ門が言う。「今回は正義の剣豪さんたちが来られていて、護衛にもついている。当然護衛がついてもダミーのチームもあるだろうけど、そもそも剣豪が護衛についてない時点で私たちのチームはどっちもダミーのダミーだってことだ」
「へえ、そんなものなのか」
 三木ヱ門の分析にもさしてがっかりした様子も見せない守一郎だった。「でも、俺はあの三人組や土井先生ならよく知っているから、一緒だと楽だな」
「そういう考えもあるな」
 あまり同意してないようにおざなりに返事をした三木ヱ門が立ち上がる。「そろそろ各チーム出発だ。守一郎も早くしないと置いてかれるぞ」
「えっ!? やば!」
 慌てて風呂敷に荷物を詰め込む守一郎だった。

 

 

 -それにしても、くじ引きとはいえ私だけがのけ者感半端ないな。
 集合したおひさま組のメンバーを一瞥した三木ヱ門の感想だった。
 -チームを率いる日向先生と伏木蔵は一年ろ組だし、伏木蔵と数馬は保健委員、日向先生と四郎兵衛は体育委員だ…って、私にはなんの共通点もない!
「全員集合ですな…ではみんなで元気にキクラゲ城に向けてゴー!」
「「「おー」」」
 陽気な日向の声にメンバーが覇気のない声で応じる。
「ほらほらみんなもっと元気よく! …『おう!』」
「「「おー!」」」
 -そういえば日向先生はやたら陽気なご性格…あれでよく一年ろ組の担任ができるな…。
 思いながらついて歩きかけた三木ヱ門に、伏木蔵がつと身体を寄せる。
「あの、田村せんぱい」
「なんだ?」
「なんかおひさま組じゃいやだって思ってません?」
「う…」
 あまりに直截な問いに一瞬言葉に詰まった三木ヱ門だったが、すぐに続ける。「んなわけないだろう。敵を攪乱するのも忍のだいじな役割だ」
「そーなんですかぁ。だから…」
「だから?」
「わざわざ敵の眼を引き付けようとしたんですね?」
 割って入って来たのは数馬である。
「どういう意味だよ」
「だって先輩がユリコちゃんを連れてきてるから、敵の忍者もぼくたちをあやしんでるみたいですよ」
「…そうか」
 敵忍者に追跡されていることに気付いていなかった三木ヱ門が慌てて周囲の気配を探る。たしかに複数の忍者の気配があった。
「すごいですぅ~、おかげで敵の注意を引き付けてるんですよ」
 四郎兵衛が感嘆のため息をつく。
「ま、まあな」
 本当はユリコを一人にしておくのが我慢できなかっただけなのだが、結果オーライである。
「そう、我々はいかに敵の眼を引き付けるかが大事なのです。田村君のようにあえて目立つ行動をとるのも一つの作戦なんですよ。分かりましたか?」
 日向がにこやかに解説する。
「「はーい」」

 

 

「それで七松先輩が『裏々山までダッシュだぁ~っ!』っておっしゃって走り回りまくるもんだから、みんなへろへろになっちゃってね…」
「ふ~ん。体育委員会ってたいへんなんですね」
「でも、保健委員会もたいへんなんじゃないの? いつも不運だし」
「そりゃまあ、委員長の伊作せんぱいは不運大魔王といわれてるほどだし…」
 歩きながら楽し気に話す四郎兵衛と伏木蔵にふと違和感をおぼえる三木ヱ門だった。
 -伏木蔵の顔の縦線、あんなに薄かったっけ…?
「どうかしましたか、先輩」
 唐突に数馬が話しかけてきて、三木ヱ門はびくっとなるのをかろうじて抑えた。
「い、いや…別に」
「そうですか?」
 何か問いたげに数馬が言ったとき、四郎兵衛の台詞に反応したらしい伏木蔵が眼を輝かせて「すっごいスリル~う!」と声を弾ませる。
「ああいや、伏木蔵ってあんなキャラだったっけと思ってさ」
 ひたすら暗いのが一年ろ組だと思っていた三木ヱ門だった。果たして数馬は納得したようにちいさく頷くと口を開いた。
「一年ろ組が暗いのは斜堂先生の影響なんです。日向先生と一緒のときはあんな風に少し明るくなるんです。ただ、日向先生が元気なのはお天気がいい時だけなので、お天気が悪い時はどちらも暗くなっちゃうから結果的に一年ろ組は暗いんです」
「へえ」
 そんなことがありうるのだろうかと三木ヱ門は考える。だが、眼の前の伏木蔵は明らかに集合した時とは違う明るさを見せている。
 -つまり、お天気屋さんの大げさバージョンっていったところなのか…。
 漠然と考えたとき、先頭を元気よく歩いていた日向に変調が訪れる。
「さあ、大きく手を振って元気よく歩きま…しょ…う…」
 突如エネルギーが切れたように日向の動きが鈍くなる。
「あ…」
 四郎兵衛が空を見上げる。それまで晴れていたのがにわかに掻き曇り黒い雲が立ちこめてきた。
「これは、ひょっとして潮江先輩と食満先輩の意見が一致しちゃった雨…?」
 つられて空を見上げた数馬が恐ろしそうに言う。
「スリルとエキサイティングぅ~」
 みるみる顔の縦線の濃さが戻った伏木蔵がワクワクを隠し切れずに声を弾ませる。もはや日向の顔にも縦線が刻まれつつある。ついにぽつりと雨粒が落ち始めた。
「まずい! どこか雨宿りできるところを!」
 数馬が上ずった声で辺りを見回す。
「お~い、こっちだ」
 声をかけられた方を見ると、すでに油紙で覆ったユリコとともに辻堂の中に納まっている三木ヱ門の姿があった。

 

 

「雨、やみませんね」
 篠つく雨を見ながら四郎兵衛が呟く。
「…だね」
 救急箱の中身を点検していた数馬がちらと顔を上げる。と、稲光が一瞬辻堂の中を明滅したと思うと雷鳴がとどろいた。
「ひえっ」
 小さく悲鳴を上げた伏木蔵が日向の身体にしがみつくが、しがみつかれた日向のテンションは至って低い。
「大丈夫…です、よ…もうすぐやみますから…ね」
 膝を抱えてぼそぼそ呟く姿は、先ほどまでの元気いっぱいの様子とは別人のようである。
「あの…日向先生、だいじょうぶですか」
 見かねた三木ヱ門が声をかける。
「あ、ああ…大丈夫です。日が隠れてしまうと…こうなるのです…この雨なら…すぐにやむでしょうから…」
「は、はあ」
 まったく説得力を持たない台詞に三木ヱ門が曖昧に頷いたとき、再び雷鳴がとどろき、地面を打つ雨は一層激しくなって水たまりを打つ。
「それで、私たちを尾行していたのはどこの忍者なのでしょうか」
 プロの忍者であれば、任務の話になればテンションも少しは戻るのではないかと思った三木ヱ門が話しかける。
「それは…分かりませんが…悪い剣豪を派遣したスッポンタケ、あるいはサンコタケと仲が悪いドクタケ、エゴノキタケ、チャミダレアミタケかもしれない…いずれにしても彼らはいまもどこからか我々を見張っているでしょう」
 果たして日向の視線が鋭さを増して辻堂の外を探り、声も張りが戻ってきた。
「あ、日向先生のお声が元気になってきましたね」
 四郎兵衛がほっとしたようににっこりする。
「そうですな…おや、雨が上がってきたようだ」
 日向の声に力強さが増すとともに垂れこめていた雨雲が流れて薄日が差してきた。
「やった。これで出発できますね」
 日向の背中に隠れていた伏木蔵も這い出して来る。
「ホントだ。明るくなってきました」
 辻堂の庇まで出てきた数馬が傍らの伏木蔵に眼をやるとおかしそうに言う。「あ、伏木蔵の縦線が薄くなってきた」
「そ~ですかあ?」
 伏木蔵が照れくさそうに額に手をやる。「ぼくも明るくなるかなあ」
「大丈夫! もうこんなに明るくなってきました!」
 ついに雲の切れ目から陽がのぞいた。日差しが水たまりに映えてまぶしく光る。日向がすっくと立ち上がった。
「さあ、まだ私たちには学園長先生からお預かりしたものを届ける任務が残っています。出発しましょう!」
 聞こえよがしに元気よく言うと先頭に立って辻堂の段を降りていく。
「「「は~い」」」
 元気よく返事をしながら伏木蔵たちが後に続く。

 

 

「くっ…」
 徐々に遠ざかる日向たちの背に三木ヱ門が声を漏らす。雨上がりのぬかるみにユリコを引きかねて難渋していた。
 -このままでは遅れてしまう…しっかりするんだユリコ!
 待ってくれとも言えずユリコを引く手に力を込め直そうとしたとき、ふいにユリコが軽くなった。
 -え?
 ユリコが自分で動くはずがない。何があったかと振り返ると、ユリコを押す日向たちがいた。
「日向先生…!」
 先頭にいたはずではなかったのかとあっけにとられる三木ヱ門に日向がにこやかに言う。
「さ、我々が押すから、田村君も引っ張って。みんなでキクラゲ城に向かうんだ」
「は、はいっ!」
 力強く押されて三木ヱ門の足取りも速くなる。
「さあ、みんなで元気よく声をだして行こう! いち、に…」
「「「いち、に…」
 明るく掛け声を背後に聞きながら三木ヱ門は考える。
 -そうか。こういうのもいいかもしれないな。
 そして声を上げる。
「いち、に…!」

 

 

<FIN>

 

 

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